矛盾した心
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「どうせなら来週まで休めば良かった」


「もう、そんなこと言わないの!期末まであと1週間しかないのよ?」


ポツリと呟いた言葉を見事に拾われ、南先生にそう諭される。…かなり小さな声でいったはずなんだが、意外と地獄耳だな、南先生。


「1週間補習したところで大して変わんないって」


「それはやってみないとわからないじゃない。それに設楽さんは全教科50点以上じゃないと夏休み返上なのよ?」


南先生の言葉にため息が漏れる。


「てか、なんで俺だけ50点以上とらないといけないんだか…。毎回学年平均以上の点数はとってるじゃんか」


こう言っては悪いが、他のB7メンバーに比べれば点数は取ってる方だ。まぁ、学年平均より上と言っても他のB7メンバーが下げまくった学年平均だからいい点数だとは言えないが。


「確かにそうかも知れないけど、いい点数とは言えないし、何より普段の授業態度が問題だから校長先生にこんな条件出されちゃったのよ?」


「はぁ…」


あの禿げオヤジ、余計な事しやがって……


心の中で悪態をつきながら舌打ちする。


ブツブツ言ったところで逃がしてはくれなさそうだし、目の前のプリントをさっさと終わらせるしか解放される術はないのだろうとシャーペンを持ち直す。


早く帰りたいというのもあるが何より、この間の一件から南先生と二人だけというのは居心地が悪かった。


ただシャーペンが文字を綴る音だけが響く中で、南先生が口を開いた。


「あの、設楽さん」


「何?」


言いづらそうに言葉を紡ぐ南先生に、手を休める事なく言葉を返す。


「あの、この間はごめんなさい」


「…………」


ピタリと手の動きが止まる。


「その……不愉快にさせてしまったみたいで…」


「別に。…ただあれ以上踏み込んで来て欲しくなかっただけ」


南先生の言葉に被せるようにいい放つ。


「誰にだって踏み込んで来て欲しくない部分はあるんだよ。……特に俺達B7のメンバーはね」


そう言えば南先生は言葉を詰まらせる。
他のメンバーにも俺と同じような事をしてしまったのだろうと、なんとなく予想がついた。


「…でも、私は皆の事が知りたい」


「それは好奇心?」


「私は皆の担任だから…ううん、私は単純に皆の力になりたいの…!」


「……勝手にしたら?」


「え?」


俺の答えが予想外だったのか間抜けな声が上がる。


「知りたいと思うなら調べればいい。…ただ、覚悟だけはしといた方がいいよ」


誰かの心の中に踏み込むのはそんなに簡単な事じゃない。
それに失敗したのが今までの担任達。


「俺、わりと南先生の事気に入ってるよ?けど、それとこれとは話が別。…俺、そんなに優しくないから」


俺の心に踏み込んで来るなら容赦はしない。


そう告げれば分かりやすく南先生の身体が硬直した。


「……って事でこの話は終わり。プリントも終わったから帰るから」


そういってプリントを南先生に押し付け教室から足早に立ち去る。


あれだけ脅しをかけたんだから必要以上には構って来ないだろう。
…今までの担任がそうだったように。


けれど………







矛盾した心
(構うななんて言いながらどこか期待している自分がいて)



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