洗濯物を畳みながら遥は"あの日"の事を思い出していた。
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『今日から帝光中学校の生徒だと言われましても……』
一体この少年は何を言っているのかサッパリだ。
赤髪の少年以外は我関せずといった様子で、各自自分の好きな事をしている。
『人違いではありませんか?』
「いや、間違えてないよ。君のお父上にでも確認してみなよ」
携帯を開くと、父からのメールが届いていた。
家族で同じ敷地内にいたとしても、滅多に話しを交わす事はない。
電話なども同様で、父からのメールを受信するのは初めてだ。
その初めてのメールを開いたが、残念ながら少年の言い分と一致した。
少年の父親というのが、私の父の旧友だという事。
大口の契約と引き換えに娘の転校を求められ、即決したという事。
"赤司征十郎"という赤髪の少年が出迎えてくれる、学校までかなり距離があるため一人暮らしをしろ云々。
……とても娘宛てとは思えない内容だ。
涙が出てきそうだ。
『では、あなたが赤司征十郎さん?』
「"さま"」
『………は?』
「赤司征十郎様だ。口の聞き方に気をつけろ」
鳩が豆鉄砲を喰らうとは、こういう状況だろう。
(神様仏様。これが巷で有名な中二病というヤツですね)
今にも"頭が高い"というフレーズが出てきそうだ。
『…ハァ……そうですか』
「僕の言う事は絶対だ」
『…そうですか』
「逆らったら殺すからね」
『……そうですか』
やっぱり中二病だ。
中二でなくても、人として大きく道を外しているのは間違いない。
「返事は"はい"だ。次そんな返事をしたら許さないよ」
黄色い頭の少年が憐れそうな表情を浮かべた。
「君にはバスケ部のマネージャーをしてもらうよ」
『バスケやった事が無いのですが』
「勉強しろ。マネージャーしながら僕達の練習相手をしてもらう」
そのジャンプ力を生かして。
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あれからすぐに帝光中学に向かい、バスケのルールを簡単に教えてもらってゲームをした。
初めてのバスケは、意外にも彼らと対等に渡り合えた。
シュートはなかなか入らないがジャンプ力を生かして、相手のシュートを邪魔する。
結果として0-0。
お互いに1点も入れる事なく終わった。
それからは、マネージャーしながら彼ら相手に対戦してと、慌ただしい毎日を送っている。
今日は祝日で学校が閉まっているためクラブ活動もお休みだ。
背伸びをすると、"ダーダン ダーダン…"と携帯から暗い音楽が鳴った。
某サメ映画の有名な曲だ。
〔これからいつものファミレスで来週の練習試合について打ち合わせをする。5分以内に来い〕
赤司様からのメールだった。
いつものファミレスというのが家から10分はかかる。
しかもこちらの都合はお構いない様子だ。
さすが主将。
全生徒から恐れられているだけある。
『ふー……』
こんな感じで彼には多々振り回されている。
だがいつも自分にギリギリ出来るかどうかの要求だ。
素晴らしい見極め力である。
『行ってこよ!』
自分を求められるというのは正直嬉しい事だ。
口が裂けても言えないが。
洗濯物はそのままで、携帯と財布を手に玄関へ向かった。
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「筆記用具はどうした」
『あ!すみません、忘れちゃいました;』
「……まぁ、5分以内に来れたから今日は許してあげるよ」
END.
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