全ての始まりだは、とある休日の練習日に起こった。
部活が終わり、黄瀬が至極嬉しそうにむしろスキップしながら近づいてきた。
「遥っち〜!俺と泊りがけでデートして下さいっす!」
"泊りがけ"。
このフレーズに、黄瀬君を除く他のキセキの面々が蒼白したのは今でも昨日の事のように思い出せる。
聞けば黄瀬君がモデル仕事でウニボーサルのチケットをもらったらしい。
しかも2名1室や1日フリーパス云々色々とセットで。
「おいコラ黄瀬!オレにも行かせろ!」
「いくら青峰っちでもお断わりっす!」
なぜなら2名1室だから。
しかもその1室というのがロイヤルスイートルームである。
その辺の中学生には不相応だが、人気絶好調の黄瀬君にはピッタリかもしれない。
そんなチケット類はプロデューサーから頂いたそうだ。
夏休みはモデル仕事と部活に宿題。
早々に1ヶ月は過ぎて、新学期。
学生らしい休みが過ごせない云々な文句一つ無くこなす黄瀬君に、プロデューサーがいたく感動したそうだ。
そして後日、プロデューサーに呼び出された黄瀬君は封筒を渡された。
せめてコレを使って楽しんでおいで、と。
それがこの一式チケットである。
「誰がなんと言おうと、遥っちじゃないとダメなんす!」
忠犬キセ公が、黄金の紙切れを銜えてもってきた。
だからご主人様に褒めて褒めてと、キラキラした瞳で強請る。
まさに今そんな状態だ。
彼より身長は低いので、あくまで見下ろされている。
非常にでかい忠犬だ。
だが大型犬は嫌いではないので、一応頭を撫でてみる。
黄瀬君はとても嬉しそうに目を細めた。
『黄瀬君がいいのなら、私はかまわないけど……いつ行くの?』
「えーっと……10月31日っす!」
『なら無理じゃん』
「え――!!どうしてっすか?!」
残念ながら今年の10月31日は水曜日。
もろ平日ということは学校があるではないか。
ようやくその事に気付いた黄瀬君。
瞬時にその場で四つんばいになり、彼からはとんでもなく哀愁が漂ってきた。
木枯らしが見えたのはきっと幻覚だろう。
断られた青峰はニヤニヤと笑っている。
うちのキセ公をあざ笑うとは断じて許すべからず。
一発蹴りを食らわした。
「その日は創立記念日だよ」
スケジュール手帳を開いた赤司は、これまた愉快そうだ。
なにやら一波乱ありそうだ。
「2人抜けるのであれば、30・31日は練習は休みにしよう。桃井、一軍に試合を入れないように」
パタン、と手帳を閉じて、ボールペンを握り締めた赤司君。
「さて、黄瀬。4名1室で手配し直してくれるかい?」
ボールペンの先は黄瀬君に向いている。
これは明らかな脅しではないか。
黄瀬君は震えながら応えた。
「よよ、4名っすか?」
「偶数の方がアトラクション的に都合がいいからね」
あと1名は…と、赤司君は紫原を見た。
そういえば10月生まれだった。
だが紫原君は興味がないようで、無言でお菓子を貪っている。
「そうだな…黒子はどうだい?」
「いいですよ。でもどうして僕なんですか?」
「1月生まれはクリスマス、正月と続くから誕生日が自然消滅する事が無いかい?」
「まぁ…そうですね。確かに数年に1回のペースで忘れられますね」
決まりだな、と両腕を組んでお決まりの王者のポーズがでた。
あぁ…ダメだ…。
一体この人はどこまでついて来るのだろうか…。
自然と遠い目をしていたようで、緑間が小さな招き猫をくれた。
彼からは哀れみ感が溢れまくっている。
招き猫は、私の今日のラッキーアイテムだそうだ。
今更幸運が訪れるとは到底思えないが、とりあえず貰える物は貰っておこう。
「じゃあ、30日の正午に早退するよ」
黄瀬君も僕と同じ心境のようで、廃人一歩手前だ。
可愛そうに。
さて、10月31日は一体どんな旅行になるのだろうか。
今から不安でいっぱいだ。
... to be continued ...10/31...
≫黒バスTOP