(―――あなたは、未来を…取るのね)






地核の最深部で"彼女"は静かに動き始めた。







第6部   過去







皆が大地震の処理に追われてる中、新年が明けた。



マルクトを襲った大地震は予想以上に被害を及ぼしていた。

建物が集中する市内地では、倒壊により負傷者や死亡者が多数にわたり、また大量に必要となった資材の不足などにより再建が大幅に遅れているそうだ。


他国の事とはいえ、その最中で祝い事をできるわけもなく、アッシュとナタリアの結婚式は延期となった。
事態が落ち着いたら準備を再開するそうだが、先行き不透明で一部からは不安な声もあがっている。


同時に行われるはずだった新年行事も、今年は過去最少人数で行われた。
アッシュとクリムゾンがマルクトへ行っているため、ファブレ家代表としてルークが参加した。

謁見の間へ向かうと、インゴベルト陛下の隣にナタリアがいた。
彼女の顔には明らかに疲労感が出ていた。
結婚式の延期処理や震災の援助など、多忙の日々を過ごしているのだろう。

帰り際に無理をしないよう伝えると微笑んでくれた。
彼女の手助けとなりたかったが、自分のやるべき事を優先しなければならない。
後ろ髪をひかれる思いで城を後にした。


「ふー…」


ルークはペンを置き、手紙を折りたたんだ。


求婚の返信は今日の分で最後だ。
幸いにも、あれから邸へ押しかけてくる者はおらず、しつこく手紙を送る者もいない。
前者に関してはティアのおかげであることは間違いない。


淡い桃色の封筒に入れて、玄関にいたラムダスに渡す。

順調に進んでいた返信に、彼はいつも悲しげな表情を浮かべていた。
ルークの婚約相手が早く欲しいそうだが、手紙の内容は全てお断りだからだ。

だが今日はいつもと違い、明るい笑顔だ。


「ルーク様、お手紙が届いております」


ラムダスから渡された手紙はピオニーからだ。
前にもらったものと違い御璽は押されていないので、プライベート的なものだ。


あの明るさからして、結婚に関する手紙だと思っているのだろう。
しかし忙しい中わざわざ送ってきたという事は、おそらく重要な連絡が書いてあるにちがいない。
震災関係だろうと伝えると、一瞬にして奈落の底に突き落とされたような表情になった。

居た堪れない気持ちになったが、こればかりはどうしようもない。
彼からペーパーナイフを受け取り、封を開けた。




《To.ルーク


新年明けましておめでとう。

我が国の震災により、貴国には色々と迷惑をかけて申し訳ない。
おかげさまでだいぶ再建は進んでいる。
この調子なら、半年もすればほぼ元通りになるだろう。


さて。
本題だが、至急グランコクマに来てほしい》




噂で耳にしているほど、再建の状態は悪くないようで少し安堵した。


だが余程急いでいたのか中途半端な終わり方で、何があったのかは書かれていない。
手紙に書けないほど重要なことなのだろうか。


(とにかく、グランコクマへ行こう!)


クローゼットを開けて、動きやすい服を取り出した。

以前は腹部を出した軽装をしていたが、今あるのは真逆な服だ。

胸の位置で留めていたボタンを5つに増やし、腹部まで留められるようになり。
ダボっとしたズボンは、細かいプリーツのミニスカートになり。
黒色の厚手タイツに、皮製のハイブーツ。
メッシュベルトを腰に斜めがけにし。
長い髪は高めの位置でまとめ、更にリボンでとめる。

…着るだけで体力全てを持っていかれそうだ。

女性とはなぜこうも重ね着をするのか、未だに疑問である。


中庭でペールと談話していたシュザンヌを見つけ、手紙の件を伝えた。
大地震が起きたばかりの土地へ向かう事に対し、彼女は不安な表情を浮かべるが、イヴリアルを同行させることを条件に外出許可を貰った。


自室前に控えていたイヴリアルを呼びに行こうとしたが、彼は既に外出の準備を終えていた。


「事情は分かりました。至急向かいましょう」

「………耳良いんだな」


自室に入り、引き出しから小型の銃を取り出した。

これは、大型の剣では緊急時に難しいからとクリムゾンから貰った物だ。
6発程度しか発砲できないがその場凌ぎにはなる。


以前使用していた刀は現在壁に飾っている。
緊急時どころか、重たくて扱えないのが現状だ。


ナタリアのような弓は使い慣れておらず、また槍も同様。
短剣は致命傷にはならず、敵と距離を取るのも困難だ。


確かに小型の銃が調度良い。

使う機会は無いと思うが、念のため護身用に持っていこう。


「イヴ、出発しよう」


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