飛び込むようにして応接間の扉を開けたのは、このファブレ邸の主、クリムゾンだ。


「シュザンヌ!一体、どういうことだ!!」


朝一でインゴベルト陛下に報告を終え、一息付こうとしていた時、邸で定期健診を受けているはずの妻からの突然の手紙が届いた。
急いで開けてみれば、信じられない内容が待ち構えていた。


ファブレ家の2人息子が、息子と娘になった。
元々ルークは女の子っぽい所があったが、やはり思っていた通りに可愛い。
戸籍を修正するのにはどういった手続きをすればいいのか。

そういった内容がつらつらと書かれており、文末には『あなたも娘の姿を一目、見てはどうですか?』と。


途中まで、手違いで送られてきたのかと思っていた。
だが読んでいくに連れて、気持ちに変化が出てきた。


―――…娘(ルーク)……見てみた…


読み終えたクリムゾンは、手紙を封筒の中へ戻し、大きく息を吸った。
一体どのような緊急事態なのだろうかと、城のメイド達が息を呑む。


「急用が出来たので失礼すると、陛下にお伝えしてくれ」


あまりにも平凡な言葉に、メイド達は一気に脱力する。
うち一人が畏まりましたと返事をすると、クリムゾンはそのまま早足で邸へと戻っていった。




そして今に至る。

応接間では限りなく穏やかな空気が流れていた。
シュザンヌは静かに紅茶を飲んでいるし、その斜め後方にいるイヴリアルはクリムゾンの存在に気付いて笑みを送ってくるし。

中庭にいるペールも窓越しに爽やかな笑顔を送ってくる。花に与えている水飛沫が太陽の光を反射して、なんとも眩しい。

ラムダスに至っては、戸籍修正用用紙とペン及び印鑑を手に、準備万端と言わんばかりにこちらをじっと見ている。


「…ルークに一体何があったといのだ」


頭痛がしてくるような気がする。
そっと右手を額に当てた。


「ルークが朝目覚めた時に女の子になっていたそうですよ」

「…見間違いではないのか?」

「いいえ、ちゃんとわたくしも確認しましたわ。間違いなく女の子です」


普段着ているルークの服で応接間に来たルーク。
そのルークの胸はパツパツになっていて、ズボンも今にもずれ落ちそうだ。
それは遠目からでもはっきりと分かる。

シュザンヌは身体が弱いおかげで、長年の夢だった娘を産むことができない。

だが目の前にいるのは、間違いなく念願の娘。
突然性別が変わったという驚きよりも、娘が出来た嬉しさの方が断然に大きかった。

娘が出来たら、可愛い服を着せたり、化粧を教えたり、少女ならではの悩みを聞いたり。
そんな諦めていた夢が、一気に蘇った。

しかしルークを混乱させてはいけないと自身を落ち着かせ、女の子がそんな服装ではいけないと、メイド達に着替えさせるように指示した。


「着替えさせるといっても…」

「あなた、嫁入り道具を見ませんでしたか?」

「……まさか、あれか…っ?!」


邸の奥の奥には長年、数え切れないドレスが眠っていた。

それは、娘が出来たらこんなドレスを着せたいと思い、結婚が決まってすぐに各地から集めてきたものだ。
ファブレ邸に嫁ぐ際に持ってきたのだが、生まれたのは息子。
あまりにも可愛いドレスばかりで捨てるのも勿体無いと思い、邸の奥にずっと置いていたのだ。


「女の子の着替えは時間がかかりますから、その間お茶でもいかがですか?」

「そうだな、頂こうか…そういえばルークには何色のドレスを?」

「もちろんピンク色ですよ」

「なっっ!!!;」


クリムゾンの脳内で、あの山のようなドレスの記憶を掘り起こした。

シュザンヌが持ってきていた数え切れないドレスは大半がピンク色のフリフリだったのは、今でもはっきり覚えている。
ただでさえデザインに問題があるというのに、シュザンヌはそのピンクのドレスを選んだらしい。

あれらがルークに似合うとは考えにくい。


「ほ、他に選択肢はないのか…?」

「そうですわね…あとは青色や緑、朱色、黒に…そうそう白色もあったと思います。ラムダス」

「はっ」


入る時に気が付かなかったが、扉から少し離れた所に、布をかけた壁のような存在があった。
ラムダスがその布を捲ると、何十着という女性用ドレスが現れた。


「ここにあるのはパーティー用にと思って揃えたものばかりなので、普段着にするには動き辛いと思いますけども」


そこに並べられたドレスはふわふわした衣装ばかりで、間違いなく動き辛いだろう。もはやピンクしかないのかと諦めていたが、ふと端に比較的薄い衣装が目に入った。
ラムダスにそのドレスを取り出すように伝える。


「こちらでしょうか?」


ラムダスが手にしたのは白色のドレスだった。


「…それをルークの部屋へ」

「かしこまりました」


一人のメイドがラムダスからドレスを受け取ると、小走りでルークの部屋へと向かって行った。


「そういえば、あれは…」

「普段着にしてはいけなかったか?;」

「そんなことはありませんわ。あれはお兄様…いえ、陛下が未来の姪のためにと下さったものですわ」


その後、イヴリアルを含めた3人で、ルークはどのドレスを選ぶのかと談笑をした。


ようやく現れたルークの姿を見て、クリムゾンは、家族でさえも見せた事のないような万円の笑みを一瞬見せた。
その表情を見たルークが一歩後ずさった事は、ラムダスとイヴリアル以外は気付いていない。



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