黒いフードを纏った者が何かの言葉を口にしている。
その者の前では、彼よりも何倍もの高さをした炎が渦巻いていた。


「…めよ…者よ」


声と同時に炎は大きくうねり出した。


「…よ……だな…」


誰かに語りかけるようにして、フードを纏う者は口端を吊り上げる。
そして、彼の背後に新たな影が幾つか生まれた。


「……します…新たなる主よ」


『主』と呼ばれた者は、静かに低い声で笑う。


「私の目的を叶える時が来た。
 ――――聖なる焔よ」



  第一章   終わりからはじまりへ



「――っは…はぁ……っ」


ルークは身を起こした。
いつの間にか全身が汗だくになっていて、シーツもかなり湿っている。
今の夢でうなされていたのだろうか。


(何だ…今のは…?)


外ではしんしんと雪が降っていた。
おかげで室内の気温はかなり低い。


(あれは、誰なんだ…?)


主と呼ばれた黒いフードを被った人は、冷たく笑っていた。
遠く、見透かされているような気がする。


(何も起こらないよな…うん、きっとただの夢。
 それにしても今頃、皆何やってるんだろうな…)


ローレライを解放する際にアッシュの中へ帰るのだと、しいては己の死を覚悟していた。
だが、現実は違った。
覚悟とは裏腹にアッシュと共に生き帰る事ができたのだ。


崩落の際、アッシュの身体がルークの元へ落下して、彼の身体を受け止めた。
すっかり冷え切った身体は、指一本でさえ動くことはなかった。
それを確認すると、ずきんと胸が僅かに痛んだ。
一瞬だが痛みに顔を顰めると、どこかぼやけたようなローレライの声が聞こえてきた。


――再び、生を得たいか?


ルークはその問いに迷うことなく、『アッシュと共に生きていきたい』と願った。
アッシュは最期までルークの手をとることは無かった。
だがもう一度やり直して、共に未来を歩みたいと。


それから気が付けば、タタル渓谷の草村の中にいた。


目をあけた先には、アッシュの身体が横たえてあり、急いで彼の元へ駆け寄り、その身体を揺さぶった。

以前なら近寄ろうとしただけで威嚇されていたが、その時ばかりはアッシュは意識がなかったため、ルークが触れることを許した。
触れられることに対して焦りを覚え、より一層大きく揺さぶる。

すると『揺らすんじゃねぇ、この屑が』と口にして、アッシュは目を開けた。
再び彼の声を聞く事があまりに嬉しくて、しばらく涙を止める事が出来なかった。


すぐにタタル渓谷からバチカルへと戻り、両親、ペールやメイド達、白光騎士団に生還の報告をした。
みんな、自分達の帰還を大いに喜んで歓迎してくれた。

オリジナルとレプリカという関係は死ぬまで変わりは無い。
それでも、アッシュもルークもファブレ家の子息なのだと、受け入れてくれた。


そのまま、平穏な生活を過ごすのだと思っていたのだが…


「アッシュ、元気かなぁ…どこで何してるんだろう…」


ローレライ解放後の報告が終わると彼はすぐに身支度をして、何も伝えないまま外の世界へ旅立っていった。
理由をたずねても一切返答はない。


ファブレ邸で腰を落ち着かせてほしいと伝えたが、ルークの声は届くことはなかった。


「…これから、何をすればいいんだろう…?」


一人残された邸で、ルークは自分を失いかけていた。

三年前と違う事はガイが邸にいないこと位だ。
砕けた話しを出来る相手がおらず、今後何をしていいのか相談できずに、自分で答えを出さねければならないのにと悶々と考える日々が続いている。


バチカルへ雪を降らしている、厚い雲で覆われた空を見上げた。

昔と違って軟禁されている訳ではないので、出て行こうと思えば今すぐにでも出て行ける。
だが外に出かけた所で、行き先も目的もない。


「……ク様、いらっしゃいますか?」


ドアを軽くノックする音で、はっと我に返った。


「え、あ、うんっ!」

「ご友人様からお手紙が届きましたので、お届けに参りました」


誰からの手紙だろうと思いつつ、ドアを開けた。
メイドが持ってきたのは、少し厚めの封筒と、薄い封筒が一つずつだった。


「ありがとう」


封筒を受け取り、扉を閉めてベッドの側にある机へ向かう。

卓上は閑散としており、その上に薄い封筒を置いた。
毎晩日記を書くために使われている机は、おかげであまり埃は溜まっていない。

引き出しからペーパーナイフを取り出して、厚い封筒の封をそっと切り裂いていく。
封筒の裏に目をやると、ある友人の名が書かれていた。


「…ティアだ!」


中には数枚の手紙が同封されている。
それを取り出し、焦る気持ちを落ち着けて、流れるような文字に目をやった。

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