『あと少しで時が満つる。運命が我らを引き寄せる時まで・・・・』


暗闇の中から、誰かの手が伸ばされた。
その手に触れてはならないと頭で警告が強く鳴っている。

逃げたいのに身体が動かないため、手との距離が縮まった。


『――…聖なる焔、《ルーク》よ』


ほんの僅かな距離まで、手が伸ばされた。




  第二章   新しい生活




「―――――っ!!!!」


目を開けると、そこは見慣れた自室の風景があった。
いつもの風景に、ゆっくりと時間をかけて呼吸を落ち着かせる。

解放以来、夢にうなされる事は多々ある。
アグゼリュスの事や、人を殺した時の夢などが大半だ。


だが、あの夢には全く覚えがないのだ。

一体、あの人物は誰なのだろうか。


「…寒い…」


呼吸が落ち着くと、身体を切り裂く寒さに気付いた。
きっと、雨から雪に変わったのだろう。

重い身体を起こし、窓の外を見る。
やはり、白綿がしんしんと舞い落ちていた。
この雪の量なら、今頃、王宮への道や城下は白銀に染まっているはずだ。

窓辺に行ってより景色を見ようと思い、ベッドから足を下ろし、腰をあげようとした。


「いてっ!!」


立ち上がると同時に、頭を下に引っ張られた。

痛みの原因となる手の方に目をやる。
そこに敷かれていたのは、長い自分の髪だった。


「………何で…?」


朱色がかった長い髪が体の下に敷かれていたため、立ち上がる時に痛みが走ったのだ。

昨日までのルークの髪は肩に少々かかる程度だった。
それが一晩で腰下に伸びている。

今は座った状態なので、実際はどの位かは分からないが。


手に敷いたままの髪を横にやり、静かに立ち上がる。
動きに連なってベッドから髪が落ちた。
懐かしいという感じよりも、何故だか新鮮な感じがした。


改めて、自分の髪の長さを確認すると、赤の髪先は膝裏にまで達していた。
長い時でも腰の辺りまでで、ここまで長く伸ばしたことはない。


「うわ、戦闘の時に邪魔になるじゃん!」


くるっと回ってみると、円を描くように髪が動いた。
確かに戦闘や入浴の際に邪魔になってしまうが、これはこれで面白い。

何度もくるくると回っているうちに扉の開く音がしたので、動きを止めて、扉の方を振り返った。


「おはようございます、ルーク様」


にっこりと笑って入室していたのは、昨夜の青年だった。
昨夜はそれなりに遅かったのに、彼の身なりは、ルークとは違って、完璧に整えられている。
青年は黒い軍服に近いデザインの服を着ていた。

軍服といっても、ルークの記憶の限り、キムラスカでもマルクトでも、どちらにも属していないものだ。


「あの…昨日はすみませんでした」

「いえ、当然の事をしただけです。それより、お体の具合はいかがですか?体調を崩されているようでしたので、勝手ながらお邸までお運び致しました」


青年によれば、あの後、偶然にも会場にいたジェイドと合流することが出来た。


取っ組み合いにならないだろうと思い、静かにアッシュとルークを見送ったものの、なかなか会場に帰って来ない。
それで心配になり、ちょうど探しに行こうとしていた時に、イヴリアルと遭遇したらしい。


ファブレ邸までそれなりの距離があるのに、青年はあのまま連れて帰ってくれた。
一見すると細身なのに、実際はかなり力があるようだ。


「私はイヴリアル・コヨーテ。本日より、あなた様の護衛の任につきます」

「……は?」


彼が口にした『護衛』とは、聞き間違いなのだろうか。

白光騎士団がいるので今まで護衛等の存在はなかったし、自分の身は自分で守るため必要ない。
また、そのような話を聞いたことは無いし、その必要もない。


「護衛って…オレに?」

「えぇ、そうですよ。私の事は、イヴとでもお呼び下さいませ」

「よ、よろしくお願いします;」


相変わらず笑顔のイブリアルは、差し出されたルークの手を両手で優しく包む。
彼の手はルークの手より何倍も大きい。
角ばっていて、男性らしい手だ。


「……ん…」


急激に眠気が襲ってきたため、咄嗟に軽く瞼をこする。
随分と睡眠をとったはずなのに、まるで何日間も不眠をしていたようだ。

うつらうつらと瞼が閉じて、身体から力がぬけていく。

その様子を見ていたイヴリアルは、ルークの身体を支えた。


「ルーク様、大丈夫ですか?!」

「うん…何だろう、すごい眠ぃ…」

「もう少し休まれてはいかがですか?きっと昨夜の疲れが身体に残っているのでしょう」


ベッドまで誘導するように、ルークの腰に手を当てて後押しをする。

スプリングの音をさせて、ベッドに片足をかけたところである異変に気がついた。

何もないはずの胸に、女性特有の胸がある。
しかも、ナタリア以上ティア未満位と、結構大きい。

肌の上から直に上着を着ているため、胸の突起が服を押し上げているのがはっきりと解かる。


「ルーク様、いかがされましたか?」

「オレの胸にちっさいメロンが…」


イヴリアルは、ふにふにと確認するように揉んでいるルークと、その胸をちらりと一目見る。
そして、口元に手を当てて、少し考える仕草をした。

彼の意見を求めるようにして、ルークは見上げる。
一体、どのような言葉が帰ってくるのだろうか。

再びルークの姿を見たイヴリアルは、口元から手を外し、微笑んだ。


「大丈夫です。どんな姿でもルーク様はルーク様ですよ」

「そっか……って、いやいやいや!!!!!」


何度も自分の胸を確認するが、変わらず柔らかい胸がついている。
これは夢なのだろうか。いや、夢であってほしい。


「うぅぅ…何だよコレ…これじゃあ、みんなに合わせる顔ねぇ…」


体調以前に、世間上が心配だ。
いや、それ以前に子爵の地位はどうなるのだろうか。
やはり返上しなければならないのだろうか。
返上なんて世間に伝わればファブレ家の名を汚すことになってしまう。
そうすればアッシュに顔向け出来ない。


そんな考えが頭の中で渦巻いているが、考えは纏まらずに頭を抱える。


「きっと受け止めてくれますよ。ルーク様はルーク様で、性別など関係ありません。これ位で壊れる関係ではないはずでしょう?」

「イヴリアルさん…」

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