..xx 使い魔 xx..





(―――なんなんだ…この状況は?!)



どうにも寝苦しい夜だった。
暑さのためなのか、日中学校で返却されたテストの点数が原因なのか分からないが。
このまま眠れるはずもないが、起きれば余計に眠れない気がする。


だが異様に喉が渇く。
砂漠の如く、乾ききった感じだ。


とにかく一度起きて、何か冷たい物でも飲もうと決心し、目を開けた。


するとそこには、自分のベッドの隅に雪男が腰かけている光景があった。
少し背を丸めて、月明かりを使って何か書籍を読んでいるようだ。


自分は座った際にはかなり広々としているのだが、いかんせん自分よりも図体のでかい弟だ。
その様子は手狭な感じがした。


「雪、男?」


声をかけると、書籍を閉じて振り返った。


「そんな所で何やってんだ。目悪くするぞ」


ベッドサイドならそのまますぐ寝れる利点もあるが、暗くて背もたれもなく安定感もない。
しかも燐のベッドに至ってはいつ蹴飛ばされるか分からない。
それぞれ机があるのだから、読むのであればちゃんと光を点して読めばいいではないか。


そういった旨を伝えるが、雪男からはこれといった反応はない。
地べたに手に持っていた書籍を置いただけだ。
その事に違和感を覚えた。

大雑把に投げ散らかしている燐とは違い、雪男はとても律儀な性格だ。
寝る前まではベッドの端に適当に積み重ねられていた雑誌は本棚に綺麗に並べられているのが良い例だ。
深夜まで仕事があり疲れているといえども、目についた人のベッドを綺麗にする位の几帳面っぷり。


そんな雪男が、祓魔関係の分厚い本を床に置いたのだ。
寝ぼけているのかと疑いたくもなる。


「おーい、聞いてんのか雪男。ここ俺のベッドだぞー」

「…分かってるよ。そんな事」

「ならちゃんと自分のベッドで寝ろよ」


イラついて少しきつい言い方になるが、それでも雪男は立ち去る様子はない。
無表情のまま、燐を見下ろしているだけだ。


とりあえず弟の事は放っておいて、とにかく何か飲み物を口にしよう。
体を起こそうとするが、全く動かない。
物理的に何かに繋がれているのでなく、体の中で伝達が上手く出来ていない感じがする。


「筋弛緩剤って知ってる?量の調節はしてるから死ぬような事はないから安心して」

「き…きん?…いや安心とかそういう問題じゃなくてな?お前何してんだよ」


筋弛緩剤という物がよく分からないが、体が動かない原因は弟にあるようだ。
人が寝ている間にこんな事をするとは、末恐ろしい弟だ。


「実験体がないからって…兄ちゃん悲しいぞ」

「年の差なんてほとんど無いだろ。あまり年上ぶらないでよね」

「…本当どうしたんだよ、お前」


いつもなら頭痛がすると言わんばかりの顔を浮かべるのに、今夜は何を言っても無表情のままだ。
今の雪男からはいつもの家族の暖かみが一切感じられない。


「僕が悪魔落ちしたら、兄さんはどうする?
 僕の事は祓魔師らに任せて、今と同じような生活をするの?
 …もしそうなったら兄さんに今までのような自由なんて無くなるよ」


双子の片割れが悪魔落ちすれば、片割れの燐もいつそうなるか分かった物ではない。
正十字騎士団に"飼われて"、実験台にされるか。
もしくは殺処分になるか。


選択肢は限られてくる。
そのどれもシュラや雪男以上の監視の数を伴い、簡単に外を出歩くことも許されなくなるであろう。


「ねぇ、兄さんは悪魔だろ?なら僕の使い魔として契約しない?」

「…お前…一体何考えてんだよ」


雪男の瞳の奥が一瞬紅く輝いたように見えた。


「契約して僕だけの兄さんでいてくれるのなら、きっと悪魔落ちなんてならないよ。
 ねぇ…どうする?」


拒否することは許さない。


準備している答えなんて一つしかないのだから。






END.




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