「兄さんっ!」


聞きなれた声に、牢の格子を振り返る。


「雪…男っ!」


格子の向こうには、弟の姿があった。
腰を落とした雪男は膝が汚れるのを気にもとめていない。
出来るだけ近い目線の位置で離せるような体制を取ってくれているのだろう。


最後に見た姿よりも、かなり、いや大分やつれているように見受けられる。
きっと雪男なりに今回の件について色々考えたり、周囲の圧力などでストレスを溜め込んでいるはずだ。
もともと、そういった性分をしていたのだから。


駆け寄りたいのは山々なのだが、対悪魔用の拘束具を付けられているため体の自由がきかない。
寝返りや多少転がる位なら可能なのだが、体を起こすことさえも難しい。
雪男もそれを理解してくれているようだ。


「どうやって…ここ、へ?」
「少しだけ、面会の許可が下りたんだ。上二級以上の階級を持つ人を2名以上付けるのならいいって」


確かに、雪男の背後にはシュラとアーサーが立っている。

この二人も同行すると申請した際、すぐに許可が下りた。
メンバーに聖騎士がいるというのが要因だろう。
だが、メフィストには許可が下りなかったと雪男が話してくれた。


「…そ、っか。お前は何度も言ってくれてたのにな…ゴメンな」


森で、剣を鞘から出さなければよかった。
他にもみんなを救う手立てがあったのかもしれない、と何度も考えた。

雪男の言葉に従わず、己の行動を優先してしまったことを悔いた。
今更後悔しても手遅れだが。


「いや。もし兄さんがあの時、違った行動を取っていたとしても…いつかはこうなってた」


雪男は苦笑を浮かべて、投獄後、外がどういった状況なのか教えてくれた。


あれから4日間が経過したが、しえみも勝呂も、未だにクラスメイト達は戸惑いを隠せずにいる。
子猫丸が数日入院をすることになったが、後遺症として残るような重大な傷は誰一人として負ってはいなかった。


また、メフィストには複数の監視役がついた。
四六時中付きまとう監視達にうんざりしているようだが、仕方のないことと納得させている。


そして燐の存在については、賛否両論が繰り広げられている。
悪魔と戦う新しい戦法という派閥と、害を成す前に始末すべきという派閥だ。
戦闘においてエクソシストが優位に立っているわけではないので、意外にも燐の存在を許す者が多いのだ。

それぞれの派閥は半々で、なかなか答えは出ない。


「雪……ちゃんと、飯食ってるか?」


空気を読まない会話だが、こればっかりは気になってしょうがないのだ。
雪男もシュラも思ってもいなかったようで、目を丸くした。


「うん。食堂とか外食でちゃんと食べてるよ」


思いを溜め込んでしまってばかりいる雪男の表情を見ると、苦しくなってくる。
ようやく本心からの笑みを浮かべてくれたことに、燐は安心した。


「迷惑かけてばっかりだな…オレ…ゴメン、な」
「…シュラからどうしてもと頼まれたので、わざわざ出向いてやったというのに。やはり無駄な時間を過ごしたな」


アーサーは床に転がる燐を一瞥すると、踵を返した。


「迷惑だなんて思ってないよ。僕は、何よりも兄さんの事が…っ」
「おい!監視の目を忘れたのか」


シュラの声で、雪男はその後に続く言葉を飲み込んだ。
カメラ先は全て筒抜けなのだ。
色々言いたいこともあるが、今後面会禁止にされてしまっては困る。







「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -