..xx  執事様!!  xx..







とある街に、どんでもなく大きな敷地があった。


そこには、ホテルやリゾート開発、医療機器など数々の事業において大成功をおさめた来良財閥のトップに君臨する者が住んでいた。



来良財閥は数年という短さで各業界の頂点の座を掴み、不況知らずな利益を保ち続けている。


だが、誰一人として頂点に立つ者の姿を見た事がない。


何故なら、取引や幹部会議などは電話やパソコンの衛生画像を通して行われるためだ。


いつも衛生画像には、口元から下が映し出される。
背筋を伸ばして椅子に座っており、机の上で手を組んでいる映像が。


―――――よって、大変頭がキレる若き青年としか世間に知られてはいない。





* * * * * * * * * * * * * * * *





敷地の中央にある屋敷があり、四方は林や芝生など自然に囲まれている。


東には『バラ園』がある。


朝露が薔薇から落ちる…なんてドラマにありがちなシーンそのものが、今まさにこの場で起きている。


10月に入り、一段と朝が肌寒くなった。


しかし、過去最高の猛暑と言われる今年は、日中になれば構気温があがる。

朝夜の温度差が大きい今、朝露は『バラ園』全体に付着している。


その清々しい様子の薔薇を腕いっぱいに収穫した男が屋敷へ戻ろうとしている。


彼の名は折原臨也。


この屋敷に住まう執事の一人だ。


「水面に流れるように薔薇を浮かべた朝風呂……これ以上に気持ちいい目覚めなんてないでしょ」


笑みを浮かべて、薔薇を撫でる。

彼の思考回路はいつも主人の事ばかりだ。

この行動も、全ては主人のため。


「本っ当!可愛いよね〜!」


"帝人君、ラブ!"


恥じる事など何もないとばかりに、声高らかに叫んだ。



一方、西側にもまた庭園が広がっている。

東のバラ園とは打って変わって、こちらは日本庭園に仕立てられている。



屋敷から庭園へと繋がる扉を開くとまず、色鮮やかな錦鯉が泳ぎ回っている大きな池が現れる。

池を挟んだ向かい側へも渡ってれるように、水上には赤い欄干をした橋が張られている。

さらに池の周りには立派な松や桜、紅葉…。


四季折々の風情を楽しめるが、秋の満月が最も見応えがある。

水面に移る満月と燃えるような紅葉は、まさに風景写真集の1ページ。


また、ここから少し離れた場所には、竹林に囲まれた離宮もある。

いつでも使えるようにと、こちらもよく手入れされているのだが、なかなか屋敷の主が訪れる事が無いのが現実だ。


「そろそろ、竜ヶ峰の奴が起きる頃だな」


金髪で長身の彼はもう一人の執事、平和島静雄。


屋敷から出る際にはとある理由によりサングラスをかけている。

だが敷地内においては顔を隠す理由もないので、外したままの状態でいる。


(肌寒いし…2度寝してるかもな)


静雄はキシ、と床板の音をたてて主人の元へと向かった。





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「「あ。」」


西のバラ園、折原臨也。

東の日本庭園、平和島静雄。


この二人はとんでもなく、犬猿の仲だった。



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