..xx Wサンド in 無人島 xx..







これが普段なら、目を開ければ見慣れた木造の天井が映る。
体を起こして布団を畳み、食事の準備をしたり、歯磨きをしたりと1日の準備を始める。


ただ、この日は違った。


目を開ければ澄み切った青空。
体の下にはサラサラの砂。
ザザーンという、南国島風のBGM。

上半身を起こすと、かき氷のブルーハワイ色の海が視界いっぱいに広がった。

吹き付ける風は、潮の香りを乗せている。


「………………」


これは夢だ。
まだ夢の中にいて、脳が覚醒していないのだろう。

そうだ、もう一度寝てみよう。

そうすれば、いつもの朝に戻るはずだ。


「あ、二度寝した。帝人くーん、おはよー!素敵で無敵な情報屋さんだよー」

「おい竜ヶ峰。起きろ」

「ちょっとシズちゃん、この子に触らないでよ。化け物菌が感染しちゃうだろ」

「うるせぇ。てめぇこそ、ベッタベタな、さっきまで変なモン触ってた汚い手でコイツに触ってんじゃねーよ」


耳元で聞こえていた二人分の声は、一層ギャーギャーと騒がしくなった。
ウミネコの鳴き声や海のさざ波音は、もはや完全に掻き消された。


自然と眉間に皺が寄る。


…夢だ、夢。

平和島静雄も折原臨也も、非日常を好む自分ならではの夢だろう。
うん。間違いない。





とりあえず、何か体にかけるものがあればすごく助かる。

気温が暖かいといっても、この状態ではどうにも寝にくい。


「帝人君、これ使う?パーカーでよければ掛けるよ」


帝人の答えを聞く事無く、体に軽い物が掛けられた。
それはナイロン製で作られているようで、太陽の熱が程よく伝わってくる。


パーカーをかけてくれた人物は静かに帝人の側に座ったようで、ジャリっと砂音がした。

潮の香りと共に、香水の香りがする。
その爽やかな香りは、今芸能界で活躍中の人気俳優が好んでつけているものだ。


「………幽さん?!!」

「うん。久しぶりだね」

「久しぶりですっ!」


飛び起きた帝人の右側には、羽島幽平こと平和島幽が座っていた。
いつもと同じ無表情だったが、どこかしら涼しげな感じがする。

横になっていた際に後ろ髪についた細かな砂を掃ってくれたが、どうにも目のやり場に困る。
溢れんばかりの、いや溢れまくっている芸能人オーラが眩しすぎるのだ。

同性といってもこんな美形がこんな近距離にいては動悸が早くなる。


掃いおえた幽は口喧嘩に夢中な二人を見たが、帝人が起きたことに気付いていない。
喧嘩を中断させて呼び戻したとしても、また言い合いが始まるだけだ。
面倒だと感じた幽は、今の状況を教えてくれた。



――静雄も幽も臨也も、気付いたら『ここ』にいた。


各自の詳しい状況はこうだ。


静雄は取立ての休憩を取っていたが、偶然この日は寝不足でうつらうつらしていた。
ハッと目が覚めた時には、池袋の景色はがらりと変わってしまっていた。
それまで吸っていた煙草はしっかりと手に持ったままで、浜辺の木々に背を預けていたそうだ。


幽は映画撮影の真っ最中で、楽屋で仮眠を取っていた。
一足早く目を覚まして歩き回っていた静雄に起こされたが、それまで伏せていたテーブルごとココへ来ていた。

新宿の事務所でパソコンをつついていた臨也は、新しく仕入れた睡眠薬を試そうと自分自身で実験をしていた。
飲んですぐに意識が無くなっていたということは、かなり効き目があったのだろう。


状況の飲み込めずに、とりあえず島を探索したが、ここはいわゆる無人島。
自分達以外に誰もいなかった。

その探索中に、同じように探索していた臨也と出会った。



「で、折原さんが『帝人君の匂いがする!』って走り出したから、兄さんが追いかけて」

「…浜辺で寝ていた僕を見つけたって事ですね」


臨也のことをニオイで見つける静雄のことを『人外』と呼んでいるが、人のことを言えないではないか。

強い潮の香りの中、微かな香りを嗅ぎ分けるとは…。
そもそも自分からニオイがするのだろうか。


「ニオイって…シャンプーや洗濯剤の香りなのかな…?」


嗅いでみるが、どうにも分からない。
自分のニオイは生活の中で嗅覚が慣れてしまっているため、他人でないと分からないと聞く。


「帝人君は…家庭の香りがする」

「……家庭……」

「すごく落ち着くんだ。癒される感じ」


家庭の香りと言われても正直嬉しくない。
しかし幽から『癒される』と言われると、それでもいいかと思ってしまう。
さすが、今をときめくスーパースターだ。


「さて、と。どうしようか?」

「え?」

「どうしてココにいるのか、どうやって帰るのか、いつ帰れるのか分からないし。とりあえずご飯でも探そうか」


”あの二人が気付かないうちに、ね”。


耳元に寄せられた幽の口からそう囁かれた。

表情には表れていないが、帝人から離れた幽は笑っていた気がする。


「帝人君のことが好きなの、兄さんと折原さんだけじゃないよ?」

「ぇ…えぇ゛??!!」


この無人島から脱出できたとしても、そこには嵐が待っている気がしてきた。




END?.





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