..xx それゆけ、平和島ファミリー! xx.. 平和島 静雄。 平和島 幽。 平和島家には二人兄弟がいた。 程よく仲が良く、程よく兄弟喧嘩をし、健やかに育つ子供達に満足していた。 四人家族に変化が訪れたのは、静雄が14歳の時。 会社の知り合いの子供を引き取ることになった。 まだ小学校には入学していない事から5歳位だろう。 育児放棄され、引き取り手が見つからず、しばらく預かることになったそうだ。 学校から帰宅すると、真っ黒な瞳に真っ黒な髪の少年がリビングのソファに座っていた。 横顔しか見えないが、この少年が話に聞いていた子だろう。 ボーっとしていて、静雄がリビングに入ってきたことにも気付かない。 「ちょっと買い物行ってくるから、帝人君のことお願いね」 「は?!俺が見んのかよ…」 「帝人君、すごく大人しいから大丈夫よ。頼んだわよ」 エプロンをテーブルに置いた母は、静雄の意思を確認する前に、鞄を持って玄関へと向かった。 「……マジかよ…」 ソファに腰かけた帝人は、テレビを見ている。 子供向けのアニメで、静雄もCMなどで目にしたことのあるキャラクターがチラホラと出ている。 母から見ているよう言われたし、とりあえずここで見張っていればいいだろう。 ダイニングキッチンの、子供が見える位置にあるイスに座る。 そこからだと横顔しか見えない。 チラっと視線をやると、帝人の頬や肌に青痣や内出血があるのが確認できた。 (育児放棄…つーか、虐待ってやつか?) 両親に言われずとも、それ位は静雄にも理解できる。 色々と気遣いをしなければならないだろうし、関わらないようにしよう。 (………面倒くせ) いつもなら新羅に写させてもらうか、ギリギリになってから始める宿題をテーブルに開いた。 ************** 何教科かあった宿題が全て終わり、壁にかかっている時計を見ると、もうすぐ1時間が経過するところだった。 一向に母親が帰ってくる気配はない。 おそらく商店街で知り合いを見つけ、立ち話に花を咲かせているのだろう。 そうなると当分は帰ることはない。 宿題を始める前に放送されていたアニメは、違うアニメ番組へと変わっていた。 ソファに座っていた帝人はいつの間にか眠っていた。 (………これは流石に何かかけてやらねぇと…風邪ひくよな…) 母親からもきっと言われるだろうし。 風邪をひかせたりなんかすれば…考えるだけでも恐ろしい。 起こさないように、自分の部屋にあるブランケットを取りに行き、そっとかけてやった。 規則正しく、弱弱しい寝息をたてて眠るその姿は、優しい気持ちにさせる。 庇護欲とはこういうものなのだろうか。 17時を知らせる時計のメロディーが流れ、帝人が目を覚ます。 ただでさえ大きい瞳を更に大きくした。 ソファから立ち上がった帝人は急いで静雄との距離をとり、瞳を閉じて謝りだした。 「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!」 「あ、いや起こして悪かったな」 「ごめんなさ…いっ」 帝人は何度も涙声に『ごめんなさい』という言葉を続ける。 怒っていることはないが、突然の行動に驚きはした。 (家で…安心して寝れる環境も無かったのか…?) 同じ言葉のみを口にする帝人の脇に手を差し込んで抱き上げると、急に静かになった。 泣きじゃくる子供をあやす時、背中を何度も叩いている親子の姿を見たことがある。 それを真似して、帝人の背中をポンポンと優しく叩いた。 腕の中にいる帝人は泣き止んで、静雄の顔を見上げている。 「………流石に、子守唄は歌えねぇからな。オレ」 落ち着きをもどした帝人の頭を撫でた。 ふわふわとした髪の毛は柔らく、触り心地がとても良い。 「えー…と…なんだっけな…そのー…帝人…でよかったか?」 「………はい」 「……オレは静雄。ここの長男だ。よろしくな…?」 「ごめいわくを、おかけしますが…よろしく、おねがい…します」 (……本当に小学生前なのか…?) まだ流暢に喋れてはいないが、自分よりもかなりしっかりしている事は明らかだ。 下手すれば、そんじょそこらの大人よりもしっかりした受け答えだ。 「…テレビ、見るか?」 「……はい」 ************** 「ただいまー…って…に、兄さん…?」 母親よりも先に帰宅した、静雄の弟である幽は目を疑った。 胡坐かいて兄は、その膝に子供を座らせて、一緒にアニメを見ているではないか。 ちょうど始まったばかりのアニメのオープニングを歌っているし。 「…ほら、帝人。アイツが悪いヤツだ!」 「はい。悪いヤツですね」 「ヨッシャ!行け!!そこで一発喰らわせろ!」 母親、父親も少し遅れて帰ってきた。 リビングへの扉の前で立ちすくむ幽を見て、何事かと思い、中を覗く。 「あら、いつの間にか仲良くなったのね」 「良いことじゃないか」 この息子にして、この親あり。 静雄の両親だけある。 ちょっとした、いや大したことでも驚くことはなかった。 > 1/3 |