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荼毘やマグネに連れられ部屋に入った瞬間飛び込んできた光景に爆豪は凄まじい怒りが眉間のあたりに張った。

壁に打ち付けられた拘束具に繋がれた幼馴染が死柄木に詰め寄られていたのだ。
手枷がついた腕を頭上に上げたままぐったりと座り込んでいる梓の頬を掴み、顔を近づけてまるで口づけをするような仕草に爆豪は思わず怒鳴ろうとするが、


ーガンッ

『近いわ、寄るな』


ぐったりしていたはずの梓が死柄木に頭突きをかましたのを見て思わず吹き出した。


「ぶっ」

『あ、かっちゃん!!無事そう』

「梓は。何もされてねえだろうな」

『うん。無事』

「なに仲良く喋ってンだよ」


痛えな、と頭突きされた鼻をさすりつつ手のひらで梓の口を覆う。


『んー!』

「おい…!てめェ、やめろ!!」


少女の小さな体を乱暴に壁に押しやり、
ぺろりと頬を舐めれば爆豪から爆発したような怒声が聞こえ、死柄木は笑みを深くした。


「おいおい、こんくらいで怒ってて大丈夫かよ。この先に進んだらどうなるんだ」

「はァ!?」

「弔くんいいなー!私も梓ちゃんの体触りたい」


トガが梓に駆け寄り、周りも傍観態勢に入ったのを見て爆豪は今までにないほど焦った。
ヤバい、どうすれば、
ガシャンッと拘束具を揺らすがビクともせず。


「爆豪くんよ、この大事な幼馴染を酷い目に合わせたくないよァ?だったら、聞いて欲しい話が」

「うるせェよ、梓から離れろ、それ以上触れんな!!」


悲痛な爆豪の叫びに梓は応えるようにもう一度死柄木に頭突きをかまし、口を覆う手が緩んだところで体に触れていたトガの手を噛んだ。


「痛ぁい!」

「おーおーじゃじゃ馬姫だねェ」


面白がった荼毘が梓に近づく。


「嵐発動すんなよ?ここにいる爆豪くんが焼け死ぬぞ?」


そこで爆豪は悟った。
自分が梓を人質に取られていたように、梓も自分を人質に取られている。

2人はカチッと視線を合わせた後
周りを威圧するようにギロリと睨み、


『かっちゃん対して、私を人質にするつもりなら、』

「俺を盾にして梓を従わせようとすんならなァ、」


『「舌噛み切って死んでやるよ」』


お互いが人質になっている事を逆手に取ったとんでもない発言に周りは唖然だった。

お互いがお互いの命を人質にかけたような状態に、尋常な思考じゃそうはならんだろ、とMr.コンプレスはひゅう、と口笛を吹いた。

しばらくシン、とした後に、カウンターの中にいた黒霧が「本当に高校生ですか?彼ら」と舌を巻き、死柄木は興ざめしたとばかりにため息をつくと梓から離れ、カウンターに座る。


「は〜、冗談はここまで。本題に入ろうか、ヒーロー志望の爆豪くん」


拘束されたまま椅子に座らされ、ベルトで固定された状態で死柄木の目が自分を向く。


「俺の仲間にならないか?」


あの日自分だけ生け捕りされた理由。
自分に何かしらの価値があるのだと思っていたが、まさかのスカウトに爆豪は即答した。


「寝言は寝て死ね」


つまり拒否。
まぁ、突然言われてもそうなるよな、と周りが納得する中、付けっ放しにしていたテレビから雄英の謝罪会見が流れ始めた。


「『!』」


それは、校長や相澤、ブラドキングが
今回の襲撃事件の対応について謝罪をするものだった。
まるで彼らが悪者のような記者の聞き方。


「不思議なもんだよなぁ…何故ヒーローが責められてる!?奴らはすこーし対応がズレてただけだ!守るのが仕事だから?誰にだってミスの一つや二つはある!お前らは完璧でいろって!?現代ヒーローてのは堅っ苦しいなァ。爆豪くんよ!」

「守るという行為に対価が発生した時点でヒーローはヒーローでなくなった。これがステインのご教示!」

「人の命を金や自己顕示に変換する異様。それをルールでギチギチと守る社会。敗北者を励ますどころか責めたてる国民。俺たちの戦いは問い、ヒーローとは正義とは何か。この社会が正しいのか、一人一人に考えてもらう。俺たちは勝つつもりだ。君も、勝つのは好きだろ」


それを聞きながら、何故彼らがああまでして爆豪を攫ったのか梓はやっと理解した。
彼らは爆豪に仲間になって欲しいし、仲間になれる意識を持つと思っているのだ。
体育祭で見せた攻撃的な一面が影響しているのかもしれないが、


(とんだ勘違い!すんごい浅はか!)


絶対に彼が曲がらないことを幼い頃から知ってるからこそ逆に笑いそうになって梓は俯いた。

その間も口説きは続く。


「荼毘、拘束外せ」

「は?暴れるぞ、こいつ」

「いいんだよ、対等に扱わなきゃな。スカウトだもの。それに、この状況で暴れて勝てるかどうか。わからないような男じゃないだろ?雄英生」

「トゥワイス、外せ」

「はァ!?俺!?嫌だし!」


カチャカチャとトゥワイスが拘束具を外す後ろでMr.コンプレスが爆豪に語りかける。


「我々は悪事と呼ばれる行為にいそしむただの暴徒じゃねぇのをわかってくれ。君を攫ったのは偶々じゃねぇ。ここにいる者、事情は違えど人に、ルールに、ヒーローに縛られ、苦しんだ。君ならそれを、」


拘束具が外れた瞬間。


ードォンッ


Mr.コンプレスが話している途中にも関わらず爆豪は速攻で死柄木の顔に爆破をお見舞いした。

彼はすぐに壁際に未だ拘束されている梓の前に立つと、彼女を守るように周りを睨みつけ、


「黙って聞いてりゃダラッダラよぉ…!馬鹿は要約できねぇから話が長ェ!」

『かっちゃんまじか辛辣!』

「要は嫌がらせしたいから仲間になってください、だろ?無駄だよ…俺は、オールマイトが勝つ姿に憧れた。誰が何言ってこようが、そこァもう曲がらねえ」

『かっちゃん、私のやつ外して。痛いし辛いし勝手悪い』

「今かっこよく決めたところなんだから黙ってろや。すぐ外すつもりだったんだよ」

『あ、でもどうやって外す?無理じゃない?』

「爆破したら梓ごとやっちまいそうだから、鍵奪うしかねェ!」

『怖!!』


とりあえず、何人か倒して鍵奪って梓の拘束解いて…出来るか?いややるしかねェ。
と爆豪が冷や汗をたらりと流していると、テレビから相澤の声が聞こえてきた。


《誰よりもトップヒーローを追い求め、もがいている。あれを見て隙と捉えたのなら、敵は浅はかであると私は考えております》

《…質問を変えます。巻き込まれて一緒に誘拐された東堂さんは、ガス攻撃をした敵を拳藤さんや鉄哲くんと一緒に倒している。つまり敵側からすれば仲間を倒した仇のようなもの。彼女にも未来があると、同じことが言えますか?》

《それも、私の不徳の致すところです》

《2人ともまだ子供です。そして幼馴染です。敵の言葉に勾引かされ、2人で悪の道に》

《彼女の理想の高さは爆豪くん以上です。何がどう転んでも彼女は曲がらない、生まれながらのヒーローです》


『先生、かっこいー…。かっちゃん!先生信じてくれてる!頑張ろ!』

「…ハッ、言ってくれるな、雄英も先生も…。そういうこったクソカス連合!言っとくが俺ァまだ戦闘許可解けてねえぞ」

「自分の立場…よくわかってるわね、小賢しい子!」

「刺しましょう!」

「いや、馬鹿だろ」

「その気がねえなら懐柔されたフリでもしときゃいいものを。やっちまったな」

「したくねーもんは嘘でもしねえんだよ俺ァ。こいつ盾にされんのも大っ嫌いだしな!それにこんな辛気くせーとこ長居する気もねえ」

「いけません死柄木弔!落ち着いて…」

「手を出すなよ…おまえら。こいつらは…大切なコマだ」


死柄木の殺気に当てられ動きを止めた爆豪だったが、すぐに彼が言った一言が気になった。


「こいつら?」


梓も?
彼女は自分でここに飛び込んできて、狙われていたわけではない。
生かされているのも、おそらく人質のため。
敵連合は彼女を欲していないはず、なのに。
こいつら?
顔をしかめれば死柄木は笑った。


「できれば少し耳を傾けて欲しかったな…。君とは分かり合えると思ってた」

「ねぇわ。それより、梓は」

「東堂梓、生まれながらにして光側の存在。俺とは水と油だなァ。だからこそ、どこまでの闇に引きずり込んだらその光が堕ちるのか、見てみたい」

「!」


爆豪は死柄木から梓を隠すように立った。
察した。彼は本能でこの子を欲している。
側に置くために。多分それは、梓の意思とは関係なく行われる。


(どんな手を使ってでも力づくで梓を引きずりこむ気かよ)


認めたくはないが、自分も梓に依存し隣にいたいと思うからこそ、彼の狂った心情を感じ取れた。


「ねぇわ」


もう一度、強く拒否をする。


「仕方がない。ヒーロー達も調査を進めていると言っていた。悠長に説得していられない。先生、力を貸せ」

《良い判断だよ、死柄木弔》


テレビから聞こえてきた声は、随分と不気味だった。


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