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第1回戦はA組+心操の逆転勝利で終わった。

「イかれ一族に鍛えられてんだ、順当だろ」と吐き捨て自分のチームメイトの所に戻った爆豪の背を見送って、梓も手招きをしている轟の元に駆け寄る。


『なに、轟くん』

「爆豪になんか言われたのか」

『ちょっと話してただけだよ』

「そうか?最初、結構険悪な雰囲気だったから少し心配した。大丈夫ならいい」


ホッとしたように目元を緩めた轟に梓は心配かけたね、と無心な顔で笑う。


『1回戦はA組の勝利かー。気合い入っちゃうね』

「あの心操ってやつ、全然ハンデじゃないだろ。動きが良いし、あの個性は使いようによっては場を支配するな」

『うん、でも、緊張してたみたいだね。動き硬かった。それより自分の心配もしなきゃ〜、B組脅威だよ。強いよ』

「ああ、出来れば東堂と組みたかったが、クジだししょうがないよな」

『轟くんと私が組んだらめっちゃ強いからきっと無双したよね』

「自分で言うか?ま、俺もそう思ってるし、東堂の相棒席を譲るつもりはない。お前ともっと共闘がしやすくなるように視界を遮らない氷壁を出せるようになったしな」

『ああ、言ってたね。別に前のでも良かったのに。ねー轟くん、私たちって割とピンチの時に無理やり連携してきたじゃんか』

「ん?ああ、ま、そうだな」

『お膳立てされた戦いで、私たちの今の個性を知ってる人間相手にどこまで柔軟に対応できるか、やってみたかったよね。きっとさ、私たちはガチ戦闘では強いかもだけど、百ちゃんや梅雨ちゃんのような柔軟な子相手だったらバランス崩して苦戦しちゃいそう』

「…たしかに」

『だから、君と…それを攻略して、もう一歩先に行きたかったなぁ』


同じチームじゃないの、ちょっと残念。
と寂しそうに空を見上げるものだから、轟はくすぐったいような気持ちで少し赤くなった頬をかいた。


「…心臓がばくばくする」

『え、不整脈?』

「違う気がする」

『一応病院に行っときなよ。怖いな』


心配そうに眉を寄せる梓と胸をさする轟の会話を聞いていたB組の拳藤と骨抜は「意外な一面見ちゃったな」「付き合ってんのかと思ったら違うね。逆にあの距離感絶妙」と面白そうに目を合わせていた。

その後も2人の会話は続く。


「東堂、雨のベールは体に纏えねーのか?」

『頑張れば纏えないことはないけどコントロールに集中するからしっかり動けなくなるよ。なんで?』

「前にも言ったが、炎熱状態でもお前と一緒に戦いたいんだよ」

『ああ、なるほど。近くにいたら普通は燃えちゃうもんね。べつにブッパして良いよ』

「は?」

『薄いベールは難しいけど、そういうことなら雨を強めに纏うから。がっつり炎熱あげてくれちゃって構わないよ。むしろ追い風たてようか?』

「お前ほんっとかっこいいな」


「ねェ、あの2人どーゆー関係なの?仲が良いとはきいてたケド…」


悪いとは思いつつずっと聞き耳を立てていた骨抜は、我慢できなくなって思わず近くにいたA組数名にそう聞いていた。

A組は2人の会話や距離感に慣れているようで、骨抜に一番近い瀬呂はちらりと2人を見ると「あぁ、あれね」と肩をすくめ、


「あれはね、無自覚依存症患者と天然守護天使」

「は?」

「それ以外に説明できねーよ。な、耳郎」

「まァね、轟は梓の事が大っ好きだから。爆豪とよく取り合いになってる」


2人とも無自覚だけどね。と頭を抱える耳郎に骨抜と拳藤は顔を見合わせて「A組の3トップ、全員キャラ濃すぎんだろ」と吹き出すのだった。





「反省点を述べよ」


一列に並んだA組チーム1と心操の5人。
相澤に促され、切島から口を開いた。


「相手にケンカする気がねェと俺の個性は役立てづれぇ。本番だったら捕まった時点でぶっ殺されてる」

「虫たちにもっと細やかな指示出せるように…」

「俺は良かったっしょ!?ホレるっしょ!?良いよホレて!大丈夫。恋なんてのはコントロール出来るものじゃないんだ。いいよ大丈夫」

「2人を失ったこと。誰も欠けることなく勝ちたかったわ。バタバタしちゃった」


インターン組である切島・蛙吹のシリアスモードに対し、上鳴のテンション高めの素っ頓狂ぶりに笑いそうになるが、心操が悔しそうに目を細め捕縛布をいじっているのに気づいて梓もへにょりと眉を下げた。


「教わったことの一割も実践できなかった。悔しいです」

「いきなり出来たら苦労しない。捕縛布を使いこなすのに俺で6年かかってる。その悔しさ忘れず次も臨め」


心操が悔しそうに眉間にしわを寄せたまま「はい」と返事をすれば、相澤はA組4人の講評を始める。
それが終わると心操は足早に梓の元へ向かった。

彼女は、同じチームの芦戸達と作戦会議を始めようと固まって地面に座っていて、悪いと思いつつも近寄れば視線がこちらに向いた。

その湖のように深く澄んだ眼が心操を捉え、ぱちくりと瞬きをする。


「あ、」

「心操くんや」


梓の反応で気づいた緑谷と麗日の視線が自分に刺さる中、心操は彼女の背後にしゃがみ込むと、


「なァ…何もできなかった。体動かねー」


小声で囁かれた弱音に梓は『んー』と悩むように唸った。


『たしかに硬かったね。最後まで』

「…わかってんだけどさ、」

『緊張、だろうなぁ。殺気や怒気に対して体が震えたわけでもないし。無理やりにでも一歩踏み出したら、たぶん後は勝手に体が動くよ。それだけのことをやってきたんだし』

「んん…、」

『捕縛遅かったし中からエアプリズン壊す余裕なかったし、最後自分で宍田くん仕留められなかったのも…できることができなかったから悔しいんでしょ?』

「そこまで出来ると思っちゃいないけど…、せめてもっと見せ場を作れたら、と思った」

『んん、相手も手強いからねぇ』

「なァ、アンタならどうした?」

『え、宍田くんと正面戦闘』

「梓に聞いた俺がバカだった」


はー、とため息をつく心操に梓はごめん、と苦笑いをする。真面目に答えたつもりだが、全く参考にならなかったらしい。


『と、とにかく、切り替えだ!次だよ、次』

「…切り替えって、そういや次、梓とだった。ここにいちゃまずいな。B組の人たちと作戦練らないと」


思い出して重い腰を上げれば物間がこちらに駆けてくるところだった。
彼の方に足を向けながら心操は最後にちらりと梓を見る。


「悪い、色々頼ったけど、次の戦闘は絶対気ィ抜かないし何が何でも勝ちに行くから。絶対手抜くなよ」

『ん。こっちも手ぇ抜くつもりない。ってか、手抜いたら負ける。だって、君は私の実力をよく知ってるからねぇ』


しかも相手は物間くんときた。嫌な組み合わせだよ。
と楽しそうに笑った梓に、心操はスッと緊張が解け始め、代わりにワクワクとした感情が湧き上がるのを感じた。

心操が物間の元に歩いていって数秒後、


「梓ちゃん、マジでどういうこと?」


先ほどまでニコニコしていたはずの緑谷は不機嫌さを凝縮した声でふてくされていた。

麗日はハラハラとそれを見守り、芦戸はニヤつき、峰田は混乱している。


「どういう関係?今の友達の会話なの?」

「あいつも東堂のこと大好きじゃんね?」

「み、三奈ちゃん、シーッ」

『べつに、心操が話しかけてきただけだよ。いずっくん、何を怒ってるの』

「話の内容もだけど雰囲気が…、君が九条さんと話す時と似てた。びっくりだけど、それよりも近い感じがした」


いつもは柔らかい緑谷の目が問い詰めるように鋭くなり、


「梓ちゃん、君にとって彼は、何なんだ?」

『…、雰囲気が九条さんのそれと似てた?そりゃあいつ嫌がるね。九条さんの事、苦手だから』

「!」

『あとで言おうと思ってたんだけど…、心操は、東堂一族の門下生だよ。体育祭の次の日からね』

「「「……えぇぇええ!?!?」」」


緑谷を含めた4人の絶叫に思わず耳を塞いで『静かにっ』と言えばやっと絶叫は収まったが、「何がどうなって門下生!?」「エッ、心操くんが!?ずっと!?」「梓ちゃんごめんそもそも門下生て何なん!?」とパニック気味である。

あんまり言いたくなかったんだけどね、
と言いつつ、梓はシーッと静かにするようにジェスチャーをすると、


『たぶんさ、この演習は心操の編入試験を兼ねてると思うんだよ。5戦目、当たるでしょ?私があいつの戦法をよく知ってるのがわかったら、きっと作戦たてるために情報言わないといけないじゃんか』

「…、ああ、もしかして板挟みになっちゃってたん?」

『ん…、心操には活躍してほしいけど、負けたくない気持ちもあってね…。できればみんなに先入観なく見て欲しいってのもあって、色々考えた結果、終わるまで普通の友達ってことにしとこって思ったんだけど』

「でも、あいつ、そんな感じじゃなかったよな。わざわざお前のところに来たし」

『峰田くんのいう通り、私が気ぃ使いすぎたみたいだ』


笑って、B組となにやら作戦会議をしている心操を見た梓の頬は緩んでいた。


『全力でやるって約束したからには戦闘だけじゃなく情報戦でも全力じゃないと。きっと向こうも私の情報、洗いざらい話してるだろうしお互い様だね!』

「梓ちゃん…、心操くんも本気やから、本気でぶつからんとね!」

『ん。あ、心操の個性とペルソナコード、あと捕縛布はさっき見たからわかると思うけど、あれはどれも相澤先生直伝ね。東堂一族が継いだものは、分かりづらいけど…』

「身のこなし?」


緑谷の即答に梓が面食らいつつも頷いたのを見て、そういえば、と麗日達は目を合わせた。


「心操くん、機動力ないし実戦初めてのはずなのに。上鳴くんが捕まってから敵陣の裏まで行くのめっちゃ疾いとおもったんよ」

「たしかに!梅雨ちゃんに追いついてたっ」

「オイラも覚えてるぞ!最後、宍田の攻撃で破壊されたパイプや鉄材も何だかんだ全部避けてカウンター食らわせてた!」

「…〜っ、思い返せばいろいろ思い当たるなぁ…!なんか見覚えがあると思ってた体の使い方…梓ちゃん家直伝だったからか…!」


腑に落ちたように唸る緑谷の表情には悔しさが滲んでおり、なんでこの数ヶ月気づかなかったんだ僕、と言わんばかりだった。


『身のこなしもだし、剣術もイケる。もしも1人の時に相対した時は、注意してて。個性だけ見るとあいつは一対一が不利だけど、それを攻略するために門下になったんだ。体育祭の時とは別人だよ』

「なに余計なライバル増やしてんだよ〜…。個性洗脳で近接もイケるとか、強えーじゃんか」

『だって峰田くん、心操は人を守りたいんだ。だったら、手を貸すよ』


峰田に責めるように見られ、穏やかにそう返した少女はパサリと羽織の袖の中に手を引っ込めると、前で両袖を合わせスィーっと口元を隠すように上に持っていく。


『私の大事な門下だ。戦場で退がると死ぬと伝えてきた。一対一で私と同じように踏み出してくる。実戦が初めての普通科生だなんて思わない方がいい』

「梓ちゃん…厄介な子、育ててしもたんやね」

『ふふ、褒め言葉?』

「〜っ、梓ちゃん、あんまり心操くんのこと誇らしげに語らないでよ。梓ちゃんは僕らとチームなんだよ。心操くんは敵チーム。ちゃんとわかってる?」

『わかってるって。いずっくんそんなに怒らないで』


この5人でチームだもんね、とニッコリ笑った梓に、多分緑谷は嫉妬しているだけだろうなぁ、と麗日達は彼に憐れみの目を向けた。

見兼ねた芦戸が小声で緑谷に問う。


「マジで知らなかったんだ?」

「…マジで知らなかった。多分、かっちゃんも」

「あのイケメン部下からも何も聞いてないの?」

「んん…僕らが九条さん達と話す機会ってないからなぁ」

「耳郎の話じゃ、心操自身が他言しないように梓に言ってたらしいよ。知られると面倒だからって」

「…ま、一理あるかも」


流石に周りがよく見えてるな、と苦笑いをしていれば、《それでは、ガンバレ拳藤第2チーム!スタート!!》とブラドキングの偏向実況が始まっていた。


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