音無は俺にキスをしたり、それ以上を望むことはなかった。
大切にされているんだろうと感じていたが、それはあまりにもなくて、もしかしたら俺に魅力がないんじゃないか…ほら、だって…俺の体は女の子みたく柔らかくないし、顔だって…特別綺麗なんてことない。少なくとも思ったことがない。いや、わかってはいてもこれは結構ちょっとかなり落ち込むわけで「日向、何やってんだ?」…、


「音無…」

「何だよ、俺じゃ不満かよ」


そう言って拗ねた素振りでそっぽをむく音無は、可愛い。
そんなこと、一生言えないけれど。
(あ、一生も何も死んでしまってるが)


「不満なわけないだろー」
そう笑い飛ばせば、音無の不安そうな顔もなんだか吹き飛んだようだ。

「で、何考えてたんだ?」
「それはだな…」

まさか。
音無があまりにも奥手すぎるから俺に魅力がないんじゃないかと自分と葛藤していた!
なんて言えるわけがない。

「…っ」

じりじり、無言の催促。
優しさがその中に入り交じっているのが、この空気の嫌なところだ。優しさは咎められないからなあ。


「…あ、無理しなくていいからな」


ぽんと軽く頭を撫でられ、何だか7年と11ヶ月くらい前にタイムスリップした気分である。因みに7年と11ヶ月前に頭を撫でられていたかどうかは定かではない。つまり、温かくて嬉しかった。少し、子どもっぽい気がするけど。
音無はよく年下にするような行動も平然釈然と俺にやってのけるから唖然呆然となることが多々。もしかしたら、生前と何か関係あるのかもしれないが、今の俺達にはきっと必要ない情報だ。

「…ごめんな、音無」
「何で謝る」
「音無が嫌いだから隠し事とかじゃないんだ…よくある自問自答自己完結するパターンだから、大丈夫だ」
「…よくわからんが、今日の日向はよく話すな」
「…」

おや?

「ほら、その…なんだ、付き合う前は…もっとよく話してただろ?もしかしたら…何か我慢させたりしてるんじゃないかと不安になったり」

なんてな、と音無は誤魔化すように苦笑を浮かべるが、全然誤魔化しになっていない。これだけ話してなんてな、じゃないだろう。


「あー…音無、実は俺も」
プチ暴露大会。

「俺も…音無となかなか進展しないから音無は実は俺のことが嫌いなんじゃなかろうかと思ったり思ってなかったり…」

と思ったり。

この言葉を聞いた音無は、一瞬目を丸くして驚いたように口を開く。

「…日向。それは、進展したいってことでいいのか?」
「!」

つい心の内を吐き出してしまったが、俺は何を言っているんだ!よりによって本人に。あぁ、俺はきっと世界一アホだ。

「日向が好きだから、傷付けたくなくて今まで…」

何故か音無は顔を真っ赤にしている。いや、俺もきっと赤いだろうが。

「マ、マジか…」
「マジだ…」

お互い可笑しな口調で認めあう。本当に可笑しな光景だ。

「他のカップルってさ、手繋ぐのが当たり前でキスをするのもそんなに時間かからなかったりするだろ」
「…おう」
「だから、俺達だって…と思いはしたけど…日向見るとやっぱり難しくて」

音無が照れたようにたどたどしく話すものだから、聞いてる此方までなんだか照れてしまう。いや、これで照れない奴はよほど肝が座ってる奴以外ありえない。

「…別に」
「?」

「別に、いいんじゃねーの?こうやって目を合わせるのすら躊躇う恋人が…いたって…」

キスを躊躇わないカップルがいたって。

「…そうだな」


ではまず、


(手を繋ぐことからお願いします!)






101128

日向ぼっこ」様に提出させていただきました。
初々しい音日大好きなので、なんだかもどかしい話になってしまいました。
日向が好きすぎて歩み寄るも目を見れない音無と、好きだけどなかなか言い出せない日向。初々しいのに心はバカップル。
そんな二人を楽しんでいただけたのなら幸いです。


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