※静雄が可哀想。
※臨也がひどい。
最初はほんの好奇心だったんだ。
あんな化け物でも、人に好意を抱くのだろうかというふとした疑問。それと同時に、もし人間を愛せるのだとしたら…化け物なんかに人間を愛させてたまるかという強い嫉妬と醜いどろどろした感情。1つの、なんでもないような疑問でこんなに心は動いた。
俺も決して善人なんかじゃなかったから、小悪魔的意識でちょっとしたイタズラ心が働いた。そう、試してみたかった。あまりにも非情。まさにその感情こそ化け物と呼ぶに相応しい、恐ろしいものだった。
始め方は簡単だった。
池袋へ出向けば、何かと目立つ彼を見つけることは簡単だった。偶然を装いわざと見つかることも。
「臨也…テメェは何度池袋に来んなって言えばわかるんだ…?」
「やだなぁシズちゃん、今日は君に言いたいことがあって来たんだよ。だから…さ、そんなに怒らないで…聞いてくれるかな?」
「あァ?突然何言ってんだ。どうせまた何か…」
「好きだ」
「…は?ついに頭打ったか、」
「今までのことを許してくれとは言わない。池袋に来るなって言うなら、もう来ないから」
「っ…何企んでやがる?」
俺は、シズちゃんの瞳が不安げに揺れ動いたのを見逃さなかった。
真っ直ぐに目を見て、次々と適当な嘘で彩られた言葉を重ねた。
「だよね。信じてくれるわけ…ないか。ごめんシズちゃん、二度と池袋には来ないことにするよ」
言葉を失い、唖然とした表情で帰っていく俺を見つめるシズちゃんの横をすり抜け、1週間程家から出なかった。
1週間と3日位経った頃にシズちゃんは俺のマンションを訪ねてきた。
…こうなるとはわかっていた。
わざと砂糖たっぷりにして出したコーヒーを一口啜り、シズちゃんは言った。
「…正直俺は、テメェが大嫌いだ」
「…」
「…でも、初めて好きって言われて…その…なんだ…嬉しかった」
「そう」
「…疑ったりして、悪かった」
「はは、そんなの全然気にしてないよ。今までの行動を考えれば当然だしね」
貼り付けたような笑みに、口内の水分が全て奪われていくような嘘の甘い言葉。いつかふきだしてしまいそうだった。
「それで…だな。まだ…まだ、よくわかんねぇけどよ…その…嫌じゃ、ねえ」
「…それはどういうこと?」
「…っ。だから…俺と付き合ってください」
「…」
正直、迷った。
ここで種明かしをしても、シズちゃんは傷付くだろう。
でもそれじゃあまだまだだ。どうせ傷付けるなら、もっともっと愛して、もっともっと深く傷付けてあげる。
「…大事にする」
嘘。
抱き締めれば耳まで真っ赤にして、子猫のように目を細めて安心したように笑っていた。
…何それ?面白くないよ、そんなの。
今まで思惑通りに動いてくれなくて、嫌悪嫌悪嫌悪、大嫌いだったのに、この化け物。
それから、1年。
何度もキスをしたり手を繋いだり…兎に角一緒にいた。
端から見ればバカップルと呼ばれるような存在にまでなっていたが、ちっとも不安や恥ずかしさ、嬉しさといった恋情はなかった。
丁度365日経った今日、俺は壊しにかかった。
舞台はビルの屋上、下手すりゃ突き落とされたりする可能性もなくはないが…まぁないだろう。そう俺は思っていたので心配はなかった。もし殺されたなら、それまでだ。
「どうしたんだ、臨也?」
「ん…?あぁ、言いたいことがあってさ」
「?」
「…耳、貸してよ」
1年前では考えられないほどに俺を信頼しきっているシズちゃんは、何の警戒もせずに俺に近付き、少しかがんだ。
少し背伸びをして、精一杯の愛を込めて。
「化け物」
言った瞬間、俺は後ろへ跳んだ。
ほらね、予想通り拳を振り回す。
そして、俺を見て、それはもう焦りに焦った表情で言うんだろう?
「いざ…や…?」
聞き間違いか?からかってるのか?ガタガタと足を震わせながらサングラスの中の瞳を揺らしながら俺の名前に疑問符をつけて呟く。
ああ、そうだ!
俺はシズちゃんのこの表情が見たかったんだよ!
見たくて見たくてたまらなかったんだよ!
「あ…あ…」
「ちょっとどうしちゃったのシズちゃん?そんなに人間みたいな顔しないでよ、暴力で塗り固められた化け物のくせにさあ」
「う…ああぁ…あ…」
みっともなく涙をポロポロと流し、言葉にならない声を発するシズちゃんは、十分に壊れた。
ちくり。
「嘘だったのか?…全部」
「うん。今まで殺したいほど憎んでた奴をさぁ…あっさり信用して愛しちゃうシズちゃんってホント単細胞だよねぇ」
「…っ!!!」
「化け物のくせにさあ…人間を愛するなんて、何なの?」
「っく…」
「ちょっと許せないなあ。本当に、何を勘違いしてるのかな?俺が好きなのは人間であって、化け物のシズちゃんなんて範囲外だよ範囲外。まぁ…今回は人間らしくて面白かったけどね」
「っざけんな…!」
「殴る?蹴る?殺す!?アハハハハハ、無理だよねぇ。シズちゃんは俺のこと、大好きだもんねぇ?」
そういいながらシズちゃんに寄り、抱き締めてやる。初めて抱き締めた時とは真逆で、真っ青な顔をして瞳を濡らしている。
ちくり。
「嘘…」
「じゃないよ?」
膝をついて、無表情に涙を流し続けるシズちゃんは実に見ていて滑稽だった。
更に抱き締めて、頭を撫でながら言った。
「可哀想なシズちゃん」
なんだ、化け物も人間らしくなることはできるんだね。
「ばいばい、シズちゃん。楽しかったよ」
ちくり。
そう言って、屋上の扉を閉めた。
ちくり。
階段を降りていく。
ちくり。
次は何をして遊ぼう。
ちくり。
ちくり。
ちくり。
ちくり。
ちくり。
「…?」
何故だろう、胸が傷んだ。
最近あまり寝てないから?まさか俺、病気?
ほら、また締め付けられるような痛み。
ちくり、ちくり。止まらない。
その時、腕に水があたった。
「…水漏れ?」
そう上を見上げると、天井には水の染みは1つもなく、かわりに頬をつうっと何かが滑った。
「…は?」
思わず、声に出てしまう。
俺は、目から水を溢れさせていた。
そのことに気付いた瞬間、ちくりという痛みはドンドンと寺の鐘突で胸の内をノックされているような激しい痛みになった。
息が、乱れる。
「っは…なんで………」
気付いた時は、認めたくなかった。
何故か脳裏に浮かぶシズちゃんの笑顔、少し照れくさそうに笑うシズちゃんの、シズちゃんの、笑顔。
本当に、あり得ないよこんなの。
胸の痛みは強さを増し、息は乱れ、たっているのが辛くなってくる。思わず、膝をついてその場に止まる。
ねぇシズちゃん、聞いてよ。
もうきっと、二度と無理なんだろうけど。
「ごめん…ごめんシズちゃん…」
もう一度聞いてくれないかな。まぁ、信じてくれるわけないか。
「好きだ」
可笑しいな、思いっきり嘲笑ってやるつもりだったのに…なんで俺泣いてんの?
ねぇ、シズちゃんも泣いてるの?
聞いてよ、この最悪なジョークみたいな言葉
「…大事にするから」
もう、遅いけど。
100806
えっ長い…笑
此処まで読んで下さりありがとうございます。何故だか突然にひどい臨也が書きたくなりました。BADENDみたいな終わりで…申し訳ない。
本当に書くのが辛くて、辛くて…途中で何度もハッピーエンドに持っていこうとしました。
こういうの考えるのは楽なのに、書くのは辛いですね。
本当はもっと鬼畜ENDでした…(^^;
…幸せになってほしいです。
しかし書きたいことつめこんだから長い…
でも好きですこういう話…臨也だから出来た話だなあ