俺たちは、殆んどの時間を共していた。
この世界に来て初めて会ったのはゆりだった。しかし、それからは。一番長く一緒にいるのは大山だろう。
「…っと。まだ誰も来てないみたいだな」
「わーい、一番乗りだ」

るんるんとでも音符マークを出していそうな上機嫌な表情でスキップしながら本部をまわる大山は、いつもよりもっと幼く見えた。

いつもなら大体はゆりが一番に来ていて、その次かその次くらいに俺たちはここへ集まる。週に何度かは朝食前にも打ち合わせがあるのだった。


今日はいつもより少しだけ早く起きれたから、準備も早く終わった。ルームメイトの大山とはいつも一緒に来る。


つまり、今この部屋にいるのは俺たちだけだった。




「なぁ大山、提案があるんだが」
「ん?なになに、」

俺が悪巧みな顔をしていることに気付かず、とことこと歩いてくる大山。そして、大山の耳元で言ったのだった。

「ゆりの席に座ってみないか」
「えぇ!?それはまずいんじゃないかな日向くん!」

そう、俺の密かな夢はゆりのいつも座っている椅子に座ることだった。随分と安上がりでどうでもいい夢だが、俺も男だし。多少幼い感情ではあるが、リーダーみたいなものに憧れたりもするわけで。まぁ何にせよ、少しだけ頭領気分を味わいたかった。

いつもならゆりが「はぁ?何それ気持ちわるーい」みたいなことをいって座らせてくれないからな。

「大丈夫、今なら誰もいないからな」
「そっか…そうだね。よし、僕も…」
「おう、」

くるりと方向転換し、俺たちはゆりの椅子を目指す。ひゃー元々校長室だっただけあって、高級そうだな。机もでかいし。


いよいよ机に近付き、椅子に手をかけた。椅子は、思っていたよりもふかふかではなかった。でも、やっぱり憧れの椅子には違いないのだ。とてもどきどきした。

「よし大山、先にどっちが座るかジャンケンだ!」
「うん、負けられないよ!日向くん!」


目と目が合い、お互い不敵に微笑みあう。そして、大山が勢いよく右手を後ろに引いた時だった。
何故そこにあったのかはわからないが、壺が肘にあたりガシャンという音と一緒に落下した。

「っ…!?」
「こ、これはまずいよ…どうしよう日向くん…」

おろおろとした様子で大山が見てくるものだから、とりあえず落ち着けと言おうとした時だった。


「んーっ今日は少し遅くなっちゃったわねぇ。まぁ、まだ誰も来てないからいいか」
「!」

なんとタイミングの悪いことだろう。すぐ扉の前だろう、ゆりの声がする。
まだ壺の破片を片付けるとか、解決策を考えていないのにボスが現れてしまった。この状況は回復するのを忘れた上に、装備をすることを忘れたままイベントボスと遭遇してしまったあれに似ていた。不幸に不幸が重なり更にずしりと重いものがくる。


「お、大山…っわ!」

大山ぐいっと腕を引かれ、思わず机の下に隠れてしまった。高級な机の下は丁度二人が入れるくらいで…むしろ大山は小柄な方だったから余裕があるくらいだった。
それと同時に扉が開かれる。


「大山…?」
「あはは…思わず隠れちゃった」
「…お前なぁ…」

…呆れた。素直に謝れば屋上からの突き落とし2回程度で済んだだろうに。が、大山のふにゃりとした笑顔に怒る気も呆れる気も失せて、ただ胸がどきんと高鳴っていた。


(…近い)


吐息が触れ合い、伝わる相手の命の音。
視線が交差し、ゆっくりと唇が重なる。

「…こんな状況でキスなんて大胆な奴だな」
「日向くんこそ」


クス、と机の下に笑い声が響いた。






「――誰かいるの?…机の下…まさか天使…」

かつかつと近付く足音を聞いて、あぁどうせ死ぬなら屋上ダイブ死よりも大山とのキス死の方がいいななんてめちゃくちゃなことを考えている自分は、間違いなくアホだと自覚した。






101130

夏休みに書いて何故か書き終え、最終チェックが終わったのが11月という謎な作品。
しかし内容はいたって単純…。
何か悪戯を共有させたくなり、こんなお話になりました。大日可愛い。なんかもう、大山くん可愛い日向可愛いじゃなくて大日可愛い。みたいな。意味分からん。
トラゼロを読むと、付き合いの長いこいつらが愛しくなります。


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