大学生×医者パロ



カチコチと、人が居なくなった廊下に何処かから聞こえる時計の音が響く。


白衣に身を包んだ20過ぎの男、紀田正臣は立ち尽くしていた。ひたすらに立ち尽くし、それは景色の1つのようだった。

しんと静まりかえった院内に、かつかつと靴が廊下を叩く音が聞こえた。それはどんどんと近付いてくる。最初は夜間の看護士かと思っていたが、ある程度近付いてくると歩き方の音で誰だかわかってしまう自分に嫌気がさした。


「やぁ」
「…俺のが先輩なんスけど、…というかこんな時間に何の用ですか臨也さん」


自分の方が先輩だというのに、大学の後輩である折原臨也はそんなことも気にせず自分にタメ口をきいてくる。元々正臣は上下関係とか気にする性格ではなかったので、あまり気にしていなかった。気にしていないとはいえ、臨也を「臨也さん」と呼ぶのもまた可笑しなことだが、この人なら本当は100年くらい生きていそうだ。なので違和感はあまりなかった。何度か会話をしてわかったことだが、折原臨也はいつも人を食ったかのように芝居かかった話し方をする。正臣はあまりそれが好きじゃなかったし、心を見透かされる気がしてあまり近付きたくない存在だった。なのに何故か臨也は自分を慕ってくる。いや…本当に慕っているのかはわからないが。


「…何でこんな時間にこんな場所にいるんすか」

面会時間はとうに過ぎているし、まず彼がわざわざこんな時間に面会に来ることなど考えがたい。幾ら医学部とはいっても一般人となんら変わらない扱いなので、侵入もそうそう出来ないはずだ。


「それは紀田君も同じだろう」
「…俺は医者だから此処にいたって何もおかしくない」
「ふうん…そうかなあ」
「そうかなあって」

事実だろう。

呆れて何も言えず、頭が痛くなる。
だが、臨也は本当に疑問を浮かべた顔で首をかしげている(可愛い女の子だったら良かったのにと心の底から思う)。

「ねぇ」

じり、と距離をつめられる。年下なのに俺よりも背が高いのが少し憎たらしい。寂しげな廊下にぽつりと付いていた電気の光が、臨也の背で遮られてしまう。



「どうして泣きそうな顔しているのかな?」




「…は?」

思わず可愛くない返事をしてしまった。それも仕方ない。仕方ないんだ。


だって、だって、この人は、何を言っているんだ?

泣きそう?誰が?俺が?
そんな、馬鹿な。この人は目が可笑しくなった、そうだ、そうに違いない。


「…っ馬鹿、になったんじゃないですか。眼科なら向こうの棟にあるから、」

「…」

「あぁ、それとも頭が馬鹿になっちゃったんですかね、それは困ったな。生憎俺は、小児…科…」


どうしてこの人はこんなにも鎮かで冷たい目をしているのだろう。俺だけが熱くなっているのか。現に反応も返ってこない。罵っても罵っても、相変わらず向けられる鎮静の赤い瞳。俺だけ熱い、…胸が、目頭が、熱い。

「うっ…あぁ…」

ぽたぽたとこぼれ落ちて染みになる。小さな小さな、染みになる。
いい歳をして泣くとか、とてもかっこつかないことだけど、そんなことを考える余裕もなく涙があとからあとからと溢れる。


「…っ…と、突然…!とつぜんの、心臓発作、で…前から、あまりよくなかっ…たけどっ…突然、突然…!急になんだ!さっきまで動いていた心臓が止まって…っ…」

「正臣くん」


突然、臨也は正臣の背中に手を回し、抱きついてきた。そして、小さな子どもを宥めるように涙を指で掬った。


「人はいずれ死ぬものだ」



わかっている。
わかっているが、それを助けようと必死になる、自分がいる。…いずれ、なんて曖昧だ。

人間が死ぬときなんていつでもいいのだ。


いつでもいい、だったら俺は…救いたくて―。


「いざ…や…」

「こんな服、脱いじゃいなよ」

ね、と促されるが、正臣は首を横に振った。


「そんなことは…」


人の死は恐ろしい。
だが、忘れてはいけない。
痛みと、悲しみを。



「いいよ、ね」

「…」

虚ろな目で正臣は臨也を見つめる。
この人は、一体何なのか。

そして、何処から取り出したのか、臨也の手にはナイフが握られていて正臣の白衣を一直線に切った。
そして、切れたさきから破いていく。

白衣の下は、また白いパーカーだった。

「『正臣くん』」



視界が潤む。


それでも目の前の顔がぼやけることはなかった。


「おやすみ、正臣くん」


心地よい冷たい指先と温かな体温に身体を預け、正臣は意識を手放した。






101211

…暗!リアル暗い。
人の死が怖い正臣と、そんな正臣が好きで好きでたまらない臨也。
正臣は弱いけど強がりなので、あのとき臨也に会っていなければ辛くても涙は流しませんでした。医者として、泣くのはなにか違うときちんと一線置いてる筈だった。
でも、吉か凶か臨也とあってしまった。臨也は正臣の胸の内を見透かしていて、全てわかってた。泣くまいと思いつつ涙をこぼす正臣を見て、「なら今だけ医者の紀田正臣を辞めてしまえばいい」なんて考えます。その結果、あんなことに(笑)
「正臣くん」としての正臣になったあとはきっと、子どものように泣きじゃくって臨也になだめてもらう。
そんなパラレルな二人、どうでしょう。

aoikumorzは『大学生臨也とお医者さん正臣が廊下で服を破く』話をかきましょう。 http://shindanmaker.com/46177 #izmskakutter


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