※音→日表現


それは僕にとって、見たくない光景だった。




「音無さん、今から何か用事とかあるんですか?」
「いや…日向の奴と適当に遊ぶと思うが…ゆりから指令がない限りはな」
「そうですか…。では」
「…何か用事があったんじゃないのか?」
「いえ、すみません…聞いただけです。僕には、生徒会副会長として仕事がありますから」
「そうか、頑張れよ」
「ありがとうございます音無さん!…それでは失礼します音無さん」


手をぶんぶん振りながら廊下を駆けていく直井を見ていると、後輩がいたらこんな感じなのだろうかと思う。
…生きていた頃は、人との繋がりがあまりにもなかったから、当然後輩とこんな風に会話をしたり、慕われたりする事もなかった。
普段はちょこちょこ犬みたいについてきて、正直面倒なところもあるが、それでも一生懸命に尽くしてくれる姿は微笑ましいものだった。

…流石に着替えを手伝うと言われたり、この前の謎の告白(?)は戸惑ったけれど。


「よっ音無。こんなところで何やってんだ?」
「日向…。あー…ちょっと考え事を、な」
「なんだぁ?悩み事かー?らしくないなー何かあったのか?まさか、恋煩いとか」
「そんなわけないだろ、アホか!」
「わーってるって。冗談だよ冗談。さーて、今日は何をしようかなー…そろそろボードゲームも遊び尽くしてきちまったか?」
「そうだなー…」



ふと、直井の言葉が頭をよぎった。


「…どうせ暇なら、手伝ってやろうか」
「…?」
「直井、仕事があるーって言ってたからさ。どうせ今日はゆりも休んでることだしな」
「あぁ、なら…生徒会室…か?よし、行こうぜ」




「お、音無さん!?どうして?」
「おい、俺もいるんだが」
「貴様はどうでもいい」
「何だと!手伝いにきてやったのに何なんだよそれ!」
「日向、落ち着け。直井も、ほら」
「…手伝いにきてくれてありがとうございます。音無さん」
「だぁー結局音無さんかよ!ほんとお前もつくづく素直じゃねーやつだな」
「お茶でも持ってきますね」
「あっこら、逃げんな!」


…こいつらのやり取りは見ていて、正直面白い。
直井の素直じゃないところを日向も本気で怒っているわけではない。そんな二人のやり取りは、兄弟みたいで可愛いものだった。


「…お前ら、本当は仲良いだろ」
「! 何笑ってんだよ音無ぃー…そんなわけあるかっ」


ぷいと顔を赤くしてそっぽを向いてしまう日向はなんだかとても、とてつもなく愛らしくて、かわいくて。

だから思わず、抱きしめてしまったんだ。


「おっ音無…?」


そりゃ狼狽えて当然だ。

だけど。


「…悪い、日向」
「な…何で謝るんだよ」
「少しだけ、このまま」
「………」


こくり、小さく頷いた。
驚いた顔と、言ってしまいたいけど言えない言葉。
全てがなんだか、苦しかった。



「日向…」
「…先、寮戻るわ。また後でな!」


…傷付けた、のかもしれない。
嫌われたかもしれないという心配よりも、傷付けたのかもという心配の方が大きかった。


「音無さん…」
「直井…」

見てたのか?と聞けば、小さく頷いた。





「僕なら…僕なら、貴方を悲しませたりしないのに…音無さん…」




「ありがとう、な」


自分の気持ちがよくわからない。
日向のことを愛しているのかと聞かれれば、すぐに頷けないし。ただ人肌恋しいだけなのかもしれない。


(音無さんの微笑みはとても綺麗で)
(どうしようもなく苦しかった)






100630

迷走開始。
何だか方向性を見失っている。
緒方さんの声で最後の直井の台詞を想像するとすごく…切ないです…







人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -