朱嘆の華しゅたんのはな 永遠の恋とわのこい朱嘆の華 第四章1
─────朝。
木に寄り添って寝ていた紗桜は、目覚めると 伸びをして起き上がった。
『ふわぁ〜……。うん、今日も暑いなぁ』
小さく呟いてから、近くに置いてあった布袋を開き、真っ白な石───満甕石を取り出す。
袋の横に置いてあった甕に満甕石を入れ、それを抱えて歩き出す。
緩く曲がりながら、樹林の中を流れていく川。
その端に屈んで、紗桜は甕の中に その川の水を入れた。
「───紗桜。おはよう」
声がかけられて、紗桜は振り返る。
『うん、おはよう』
紗桜は微笑んでそれに答え、水でいっぱいの甕を抱えて 歩き出した。
カサカサ、と頭上で葉の擦れる音がし、紗桜は仰向いてそれを見る。
紗桜の目が何かを捉えた瞬間、焦茶色の小さな栗鼠が、ぱたり、と紗桜の肩に落ちてきた。
『……大丈夫? おはよう』
おはようっ
明るく答えた栗鼠は、紗桜の肩の上で体制を直す。
それを確認して、紗桜はまた歩き出した。
すると更夜が駆け寄って来て、持つよ、と言った。
『いいの? ありがとう』
頷いた更夜は、紗桜から甕を受け取り、面白そうに言った。
「本当に……よく懐かれるね、紗桜は」
『だよね。飛鼠や小動物だったらいいんだけど……大型の妖魔とかがフラフラ来たら怖いなあ……;』
「あれ、大型の妖魔にも会ったことはあるの?」
並んで歩きながら、更夜は不思議そうに問いかけた。
『ううん、さすがに。……あたしもやっぱり、妖魔は怖い……;』
そりゃあね、と更夜は頷き、しばらく歩いたところで甕を降ろした。
紗桜は、歩きながら拾った枝をまとめて置き、肩に乗っていた栗鼠を手で掬い上げて 胸に抱いた。
忙しない様に小さく動く栗鼠を微笑んで見やり、紗桜はふと上を見た。
緑の葉の隙間から、朝陽が木漏れ日となって差し込んでいる。
それから、鬱蒼と生い茂る緑の樹林を見渡し、紗桜は一つ、息を吐いた。
((だいぶ、黄海の生活にも慣れてきたなぁ……))
───夏のはじめ。暖かい黄海は、もうすでに 夏の猛暑を受け入れている様だった。
更夜が まだ居てほしい、そして、紗桜が まだ居たい、と伝えてから、冬が過ぎ、春が過ぎた。
紗桜は、更夜のおかげで黄海で暮らしていけ、更に この世界について、様々な事を教えてもらっていた。
同時に、何かしら生物に好かれる紗桜は、移動するたびに友達をつくり、そして楽しそうに接していた。
そんな紗桜だからか、もとより 更夜が何時でも一緒にいるからか、紗桜が妖魔に襲撃されることは、今まで一度たりとも無かった。
────そんな日々が続き、紗桜は この樹海の中で、不思議な生物に出会った。