05 「もうちょっと、時間が欲しかったんだけどなぁ……」 紗也、と声を掛ければ、閉じていた瞳がゆっくりと開かれて、俺を捉える双眸に心臓が音を立てた。 自嘲気味に呟かれた言葉に厭な汗が伝う。 跳ね上げた俺の霊圧の上昇に応えるように、上げられた霊圧に向かって瞬歩で駆けて来た。 直ぐに見付けられた事に安堵したのも束の間、膝を抱えたまま、俺の存在を認識しても決して顔を上げようともしない紗也に焦燥が湧いた。 躊躇って、でも一歩と踏み出した俺の動きに反応して、ビク と揺れた躯に血の気が退きそうな程にショックを受けて……。 其れは、紗也が…… と、最悪な想像しか浮かばねぇ……。 『紗也が……』 木霊する阿散井の声に、喉がカラカラに渇いて行った。 「紗也……」 触れて、抱き締めて、此のどうしようもない不安を早く消してしまいたい。 座り込んだまま動かない紗也の傍に歩み寄って手を伸ばした……、のに、 「紗也、話、をっ……」 傍に寄った俺から身を縮込ませるようにしてまで距離を取ろうとする紗也に、頭が真っ白になりそうになる。 今度は俺が払われた手。 そんなもの、痛くも何ともねぇはずなのに、手だけじゃねぇ、全身を刺すように痛みが走った。 「もう、話も聞いて貰えねぇのか……」 「…………」 キュッと口唇を引き結んだまま、紗也は俺を見ようともしない。 「何か、言えっ」 其れは、二度と戻らねぇと決めていた振り出しより悪い……っ 「紗也」 ぐっ と半ば無理矢理引き寄せれば、ごめんなさいと謝罪を口にして距離を取ろうともがく。 何で逃げんだよ……。 もう、お前は俺のモノのはずなのに……。 「逃げるな」 「っ……」 そう言えば、強張っていた躯から力が抜けて、逃げてごめんなさいと小さな呟きが聴こえた。 「ご、め……っ、ごめんね、修兵……」 「何っで、謝るんだよっ」 紗也に謝らせたい訳じゃねぇ……。謝罪なんて要らねぇんだ。 一生、ずっと。俺は終わりにするつもりなんかねぇんだって、もうずっと伝え続けて来たはずだ。 二度と、手放してなんてやらねぇって…… 「ごめん、なさい」 「だからっ」 「私はっ……、私からはもう、約束は守れない……」 ちゃんと手を放すって、 あんなに約束したのに…… 「………………」 『約束な…………』 「阿呆……」 其れで、良いんだよ…… |