どんな君でも〜 | ナノ

02


三十七度一分。


体温が低めの紗也に対する俺の中の許容範囲が此処だ。

此れ以上は一分足りとも譲らねぇ。超えようモノなら過保護上等、即自宅療養させると決めている。

微熱だ何だと不平を口にする紗也を強制的に黙らせて、何度布団に縫い留めてやったか知れない。

其の、俺がっ……


「不味ぃ……」


ピピッと鳴った懐から取り出した体温計の示す数値に、俺は深い息を吐き出した。


大変不味い事に風邪を引いてしまった。
夏風邪なんて阿散井くらいしか引かねぇだろうと思っていたのに、此れはもう一生の不覚としか言い様が無い。

何となくダルさが増した気がした午前中を、気のせいだと言い聞かせて遣り過ごしていたのが、間の悪い事に、管轄区に出現しやがった虚の殲滅やら事後処理やら……。
諸々の不測の事態のせいで、いよいよ見過ごせない所まで来てしまっていたらしい。

表示された数字は、三十九をあっさりと超えて……


「マジでヤベぇ……」


笑って誤魔化せる限度を超えていた。



なかなか治らない症状にヤベぇかもとは思ってはいた。思ってはいたが、あくまで若干の違和感を感じる程度だった其れを、寝れば治る、と決め付け続けた……のが悪かった。

此れじゃあ紗也に触れられねぇ処か、


「近くにも寄れねぇ……」


其処かっ!と言う突っ込みは敢えて無視する方向で行かせて貰うとしてだ。別に熱だの痛みだのはどうとでもなるが、流石に触れられたらバレんだろ。

其れは不味い。
不味い事この上無い……。

絶対に、感染す訳にもバレる訳にも行かねぇんだ。


「………………よしっ」


とにかくだ!
何が何でも隠し通すっ!


一日二日くらいなら何とかなんだろと立ち上がる。


なるべく紗也に接触しねぇ。で、それでも駄目なら隊舎にでも泊まるか……


無駄に書類を持ち帰るのも、流石にもう限界で。
怪しまれる前にと算段を付ける。


「っあ――… くそっ」


抱きたい。

触れられねぇなら顔くらいみたい。


「襲わねぇ自信無ぇぞ」


今日は念の為にと飛ばしておいた地獄蝶で、遅くなると伝えて有る。

深夜に近いこの時刻なら、流石にもう寝ているだろう。

今夜は顔を見て、そして、


「また隊にとんぼ返りかよ……」


後少し、治るまでだと吐いた溜め息までが熱かった。






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