03 結局――… 告げる事も、誘う事も出来なかった誕生日当日。 朝っぱらから黄色い声が絶える事の無い副官室には、だから四年も前から一貫して受け取らねぇと云っているにも関わらず、積み上げられる箱の山。 「お前らの隊務は一体どうなってやがる……」 此処まで来ると執務妨害だろうと、何度、苦情込みの地獄蝶を飛ばした事かと溜め息を吐いた。 祝って欲しいたった一人には告げる事も出来ねぇっつーのに……。 しかも今年に限っては未だあの夜のまま、誤解を解く事さえ出来ねぇままで、毎年せめてもと望んでいた、顔を見に行く事すら叶わねぇ。 上手い言い訳が在るなら教えてくれよ…… もうどうしたって誤魔化し切れねぇ、今の爆発寸前の想いを持て余したままの俺じゃあ、会いに行く事も出来ねぇだろ。 「傷付けちまうかも知れねぇだろうが……」 何かを望んでしまいそうになる。 『私の部屋に……』 必死に耐えて、抑えて来たモノをかなぐり捨てて、手を伸ばしてしまいそうになる自分が一番怖い。 絶対に、失くす訳には行かねぇんだ……。 遠回りなんて、そんなモノは大した事じゃねぇ。 俺の恐怖は、 向かう途の先に、君がいない事だけ……。 「っ、入、れ………」 コココン、と正式なノックの音に続いて聴こえた声に、心臓が有り得ない程に脈打った。 いつもなら、俺が顔を出すはずの時間帯。 今まで一度だって、紗也ちゃんが昼休みに俺を訪ねた事なんて無くて…… 不意打ちとか…… 今の今まで考えていた人物の登場に、ヤベぇなと悦び逸る心臓を抑えて傍に寄った。 「どうした?」 「いえ、あの……」 「紗也ちゃん……?」 手にしている書類を持って来てくれたんだろうに、其れを渡すでも無く何かを言い淀む様が、普段の彼女とは違って不安を覚えた。 何処か居心地が悪そうに後退ろうとするのに焦って、思わず手を伸ばし掛けた瞬間、紗也ちゃんが向けた視線の先を覚って内心で舌打った。 受け取ったつもりは無い、けれど無造作に積まれた箱の意味に気付かねぇ奴はいない。 正直、まだ居やがったのかと、存在すら忘れていた女共のあからさまな視線に紗也ちゃんが目を伏せたのが解って、今度は違う感情からの心臓が鳴る。 「紗也ちゃん?」 そんな彼女を女共の視界から遮るように立ちながら、どうか誤解だけはしてくれるなと、祈るように声を掛けた。 『あの、阿散井副隊長から、です。お忙しいところにお邪魔してしまって……』 申し訳有りませんでした。 『紗也ちゃんっ……』 結局、俯けたままの顔を向けてくれる事の無いまま、呼び止める声にも振り返ってはくれずに、退室して行ってしまった紗也ちゃんを茫然と見送った。 『こんな時間にすみませんでした』 なんて、気遣いの言葉が逆に刺さった。 追い掛けたい……。 追い掛けて、腕に捕らえて、違うんだと伝えたい。 「だから違うって、何がだよ……」 今の俺には、言い訳をする権利すら無ぇんだと嘲笑えた。 其れはまだ、何一つ許されてさえ居なかった、 あの頃の…… 記憶――… |