どんな君でも〜 | ナノ

01


会いたいと思えば思う程、タイミングの悪さとは重なるもので。

二週間以上も紗也ちゃんに会えない禁断症状を抱えたまま、八月もゆうに十日が過ぎようとしていた。


「檜佐木副隊長ぉ、今一番欲しい物ってなんですかぁ」


紗也ちゃんて答えるぞ此の野郎……っ


こんな苛々が増してる時に限って、会いたくない奴等ばかりがやって来る。


八月十四日は言わずと知れた俺の誕生日で。

特に意識をする必要も無く過ごして居ても、一月も前から騒がしい周囲がそうと知らせて来るから鬱陶しい。


お前らじゃねぇんだよ。


欲しいモノはたった一つで、其れを叶えられるのもたった一人で。


「会いてぇ……」


偶に有った六番隊からの書類配達も別の奴らがやって来る。
こんな時に限って、重要書類も原稿以来も出て来ねぇ。

は――… と溜め息を吐いて辺りを見回せば、知らねぇ間に副官室の見通しが晴れていた。

そう言えば大分前に、失礼だとか何とか文句が聴こえた気がしねぇ訳でもねぇが、まぁそんな事はどうでも良いとまた溜め息を吐いた。


紗也ちゃんを好きだと自覚して、もう唯一無二と心に決めてからは、下心付きの祝いの言葉やら品やらは有り難迷惑な物と化していた。

酷ぇと云われようが何と言われようが、そんなどうでも良い事に構っては居られねぇ。


たった一人、信じて欲しい人がいる。


なら、俺がするべき事は決まっている。

絶対に誤解されるような真似はしない。

誰に何て云われようと、紗也ちゃんが信じてくれるなら其れで良い。

彼女に真っ正面から向き合える俺で在りたいと思っている。

其れでもまだ、


「足りねぇくらいだけどな……」


まだ、たったの四年だ。
本来なら俺達死神に取っちゃ、五年十年なんて物の数じゃねぇ。

けれど、紗也ちゃんが絡めば話は別で、想い続けた時間はあっと云う間でも、焦れる時は残酷なまでに緩やかだ。


こうして長く傍に居たって紗也ちゃんの気持ちは掴めないままで、彼女の微笑み一つに一喜一憂し続ける俺が居る。


「…………つーか」

「檜佐木副隊長、次の書類なんですが……」

「もう無理」


俺は良く我慢した。


「……は?え? ちょっ!檜佐木副隊長っ!!?」


と、慌てる三席を無視して立ち上がる。


用事が無ぇなら作れば良いし、忙しいなら脱ければ良い。


「三十分。其れから今日は残業無しで」

「だから何を仰っ…………三十分だけですからね。其れから!って、あああっもう居ないっ」



今日だけですからねぇえええええっ!!!



はいはいと、かなりアッサリと逃してくれた三席の雄叫びを遠くに聴きながら、


「絶対アイツ、今後の仕事の効率を天秤に掛けやがったな」


優秀な部下の苦渋の判断に頷いた。








*


「お疲れ様です。檜佐木副隊長」


どうぞと置かれた良く冷えた麦茶を口に含む。
先に出されていた白湯に彼女の気遣いを感じて、ありがとなと呟いた。

もう、紗也ちゃんとの間に距離を感じる事は無い。


「今日、は……」

「はい?」


……って言いながら、誘う時にはまだ緊張すんだけどな。


若干情けなさを感じない訳でも無いが、其れだけ好きなんだからしょうがねぇ。

何年経ったって、こんなに胸が震えるんだから本当に笑える……


「今日、早く上がれるなら飯食いに行かないか?」


気付かれ無いように息を吸って腹に力を入れながら、こんな阿呆な努力をする俺を知れば、君は笑うだろうかと自嘲する。

予定でも思い反して居るのか、思案する紗也ちゃんを大人しく待てば……


「七時を少し過ぎますが、大丈夫ですか?」


ぅおっしゃ――っ


と、心の中でガッツポーズをしたのは気取られちゃなんねぇ。

本当に。

何年経ったって、こと紗也ちゃんの事になると俺は全く進歩が無ぇ。


其れが誇らしいと思うんだから、もう其れで良いと苦笑した。







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