どんな君でも〜 | ナノ



「恋次先輩なんて、大っ嫌いです!」

「「…………」」


ヤベぇ……。


「其処、鼻血押さえんの止めてくんねぇっすか」

「無理……」

「おいっ」


……つったってな。

大嫌いと云われて軽く放心してる阿散井には悪いが(良かった、俺じゃなくて。そんな事を紗也ちゃんに云われたらマジで死ぬ)、涙目で拗ねる紗也ちゃんなんてのを目の前で拝ませて貰った日にはもう、悶絶なんてもんじゃねぇ訳で……。


「何で起こしてくれなかったんですかっ……」


って、自分の寝起きの悪さを棚に上げて阿散井に当たる紗也ちゃんが可愛過ぎるったらねぇ。


「いやっ お前 ちょっとやそっとじゃ起きねぇだろ……」

「次やったら、絶対に起きるまでグーで殴って下さいってあんなに言ったじゃないですか!」

「出来るかっ!」


うん、阿散井じゃなくても其れは無理。っつーか、阿散井には絶対無理だ。そんなの朽木隊長にだって無理だろう。


九番隊副官室のソファの上で、現在 膝を抱えるようにして蹲る紗也ちゃんは、漸く仕事を終えて迎えに来た阿散井に理不尽な怒りをぶつけている。

動揺からか『恋次先輩』呼びになってるわ、ピョコンと髪の隙間から覗く耳や項までが朱い事から、恥ずかしさのあまりどうして良いか判ってねぇってトコなんだろうが。

其れが解るだけに文句も言えない。


「恋次先輩なんて、大っ」

「うっわぁあああっ!紗也っ 解った!俺が悪かったっ!!!」


阿散井だってもう、タジタジだ。


ヤベぇ、本当に可愛過ぎ……


「だから其処!鼻血押さえんなっつってんだろっ!」





覚醒して、状況を呑み込んだ後の紗也ちゃんは其りゃ凄かった。


現状を把握して蒼くなる。

そうして自分の居場所が俺の膝の上だと知るや、途端に顔色を朱に反転しては、其の顔を隠すべく俺の胸に顔を埋める……。


『っ!ご、めんなさっ……』



・・・・・



『ッキャァアァアアアアッ!!!』


其れからまた自分の失態に気付いて、ガバッと勢い良く離れながら悲鳴を上げる悪循環。


そして、そんな紗也ちゃんを静かに堪能する俺……。


マジ、可愛かっ……


「だからアンタが一番性質悪ぃだろーがっ」







*


「……本当に、申し訳有りませんでした」

「全然、気にしないで良いからな」


お忙しいのに、
ご迷惑を、
重いのに、
お騒がせして……


と、大分 落ち着きを取り戻した紗也ちゃんが、居たたまれなさそうに項を垂れるのに優しく微笑んで返してやる。


全然。

処か、こんな幸せな事って存在すんだなと思うくらいに幸せな時間だったと、口には出せない本音を『対・紗也ちゃん用』の笑顔で完全武装して受け答えてやれば、少し強張っていた紗也ちゃんの頬が弛んだのが判って俺の表情も自然と弛んだ。





「其れじゃあ」

「おう」


今度こそと踵を反した阿散井の声に二人を見送る体勢に入れば、其れに続くはずの紗也ちゃんが俺の前に佇んだままで首を傾げる。


「どうか、したか?」


あの、と言い淀む紗也ちゃんを、まだ何か遭ったかと出来得る限りの優しい声音で促せしてやれば、躊躇いがちな声が何とも可愛らしいお願いを紡ぐから目眩がした。


「いえ、其、れで。出来れば、其の……」

「ん……?」

「今日の事は、忘れてしまって戴けると……。あの、」


ダメですか……?


なんて


・・・・・ごめん、無理。



真っ赤な顔で眉を垂らしたしかも少し寝乱れた紗也ちゃんが俺の膝の上で死覇装を掴んで涙目で上目遣いとかもう今世紀最強の凶器だろってか何を忘れても此れだけは忘れられねぇ寧ろ忘れる訳には行かねぇだろ其れは無理っ(ノンブレス)。


「……もう、憶えてねぇから。大丈夫だ」

「…………っ」


だから安心しろよと、完璧な俺の返答に俯けた顔が上がって、パァアアッと効果音付きで紗也ちゃんの表情が明るく解れるのに笑顔で応えた。

其の頭を撫でて遣りながら、



マジ汚ぇ……

何とでも言え。




真横から突き刺さる胡散臭気な視線は丸無視してやった。






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