半 「だから言ったじゃねぇっすか……」 もう此処しか無ぇと連絡した阿散井にムカついたとしても……。 * 霊圧は閉じている、伝令神機の電源まで落とされる。 その上状況がまるで読めてねぇ俺は、もう此処しか無ぇと阿散井に連絡を入れていた。 「何がだよ……」 『だから、あんまり紗也で遊んでたらって……』 「遊んでねぇよっ!」 何を言ってやがる。この前から訳の解らねぇ事ばかり言いやがって…… 『は………?』 「は、じゃねぇっ!そんな話をしてる場合じゃねぇんだっつの!!!」 紗也が帰らねぇと言った。少し頭を冷やすと言っていたから……。 紗也の事だ、間違いなく少ししたら帰って来るんだろう。それでも。 一人にしてもやれない。 帰るのを待って居てもやれない。 こんな寒空に、こんな遅ぇ時間に一人で居させるなんて冗談じゃねぇと気ばかりが焦る。 とにかく早く連れ戻して、紗也が嫌だと言うなら俺が部屋を出る! 『……えーっと、檜佐木さん?』 「何だよっ」 『もしかして、素でした?』 「……手前ぇ、ホントいい加減にしろよ……」 『ちょっ、待っ……!そのまま、待ってて下さいよ―――っ!!!』 手前ぇの戯言に付き合ってる暇は無ぇと、ユラリと上がった俺の霊圧に慌てた阿散井が、史上最速な勢いで飛んで来た。 そうして事の子細を説明されて、俺は文字通り、茫然と立ち尽くした……。 * 『マジで気付いて無かったんすかっ』 余裕ぶち構して紗也で遊んでんだと思ってましたって、其れは一体何処の俺様だっつーの! そんな余裕が有るなら苦労はしない。 あの、紗也を相手に……。 俺にそんな余裕が有ったなら、 「今、こんな事にはなってねぇっつのっ!」 ほんの少しも傷付けたくない。傷付けて失くしたくない。 「俺だってお前に触れるのは怖ぇんだよ」 其れがこんなにも、震える程に怖ぇなんて、お前に解るだろうか。 絶対に失くしたく無ぇと恐怖する。この想いを伝える術が欲しいと思う程……。 グッと拳を握り締めて、雪の夜を紗也を探して駆け抜ける。 吐き出す息が白い。 もう、どのくらいこうして探し回っただろうか……。 今もこの寒空の下で、紗也が一人で膝を抱えて居るかと思うと、居ても立っても居られない。 ギリ と噛み締めた口腔に広がる苦味に、自戒の念しか浮かばねぇ。 立ち止まって息を吐くと、伝令神機をもう一度押した。 頼むからと祈るように握り締めて、呼び出し音が鳴ったと同時に聴こえた声に安堵する。 刹那…… 「檜佐木副隊長……」 「紗也!お前、今何処にっ……」 「帰りたいっ」 「…………っ」 聴こえた声に、紡がれた音に息を呑む。 全身が、戦慄く――… お前の帰る場所は、俺の腕の中だけだと…… 「迎えに来て……」 紗也が望んでくれた気がした……。 「早く、霊圧昇げろ……」 * 「先ずは、風呂」 冷えきった紗也の躯に、眉間に深い皺が寄る。 こんなになるまで追い詰めた自分が腹立たしい。 『帰るぞ……』 腕に収めた紗也の氷のような冷たさに、言葉に出来たのはそれだけだった。 紗也の不安や戸惑いに気付いてもやれねぇ自分に溜め息も出ねぇ。 ごめんな…… 縋り付くように抱き締める俺に告げられた紗也の想いに、余裕の欠片も無かった自分が口惜しかった。 「ごめんなさ……」 悴んだ手で俺に触れる紗也が、泣きそうな瞳を向けて来る。 今、謝られるのはキツい……。 自分の冷えた躯になんて気付いちゃいないだろう紗也が俺の心配をする。本当にらしい、それが、愛しいと込み上げるものに耐えた。 「次、副隊長っつったら一緒に風呂な。頭の中でズルしてっから、いつまで経っても呼べねぇんだよ」 誤魔化すように叩く俺の軽口に、目を見開く紗也に内心でまた苦笑する。 今の俺に出来る事は、少しでも紗也の気持ちが軽くなるようにしてやる事だけだ。 紗也が厭なら、そんなものはいつだって…… 「檜佐木副隊長……」 今……。 そ、れは――… 「…………紗也?」 「………一緒に、お風呂、です…よ、ね」 紗也が、真っ赤になって躯を震わせて。絶対に言わねぇだろう言葉を、想いを一生懸命告げて来る。 震える手を握り締めて、戦慄く口唇を噛み締めて…… 覚悟とは違う。 確かな想いをくれる……。 俺の、為に――… 「あの、厭ならいいですか、ら……」 「……良いんだ?」 動けもしねぇ俺を、また勘違いした紗也が逃げ出そうとするのを捕まえる。 抱き締める腕に重なる温もりに、これ以上が在るのかと呆れる程に愛しい想いが沸き上がる。 本当に、コイツは…… 俺が紗也に敵う日は来ねぇと思う。それが幸せだと伝えたいと思った。 「紗也……」 「……修、兵?」 「愛してる」 きっと、どんな君でも――… |