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  06


『好きなヤツが出来た』


其れは春に入隊して来た新入隊士で、気付けば目で追う事が増えていた、そんな感じだ。

何がどうとは上手く言えない。

まだ幼さの残る容貌は、可愛い、と言っても、其れは特別目を惹くと言う訳でも無かったと言うのに……。


屈託無く笑った、人懐っこい笑顔が何かに触れた。


其れが気になって、気にして……。

本当に、只いつの間にか、姿を見掛ければ視線を向けるようになっていた。

顔を見るだけで、らしく無く高鳴る胸。

何がとも言えねぇ、訳も解らねぇ、其のくせ躯の何処かで憶えている其の感情を、『そう』なんだと思った。


其れが俺達の、終わり――…









「……そ、か」


解ったと、少しの沈黙の後で微笑ったのは紗也で、


「そうかなって、思ってたから……」


そう言って瞳を伏せるから、俺は軽く瞠目してしまった。


正直、気付かれているとは思っていなかった。


確かに紗也とはもう長い付き合いで、お互いに言葉は無くとも解り合えるくらいの信頼感が在って……。


「っ、あ―…、いや」

「大丈夫だよ」


其れでも、少しだけ罰が悪くて掛けようとした言葉は、苦笑いの紗也に遮られてしまった。


「……悪い」

「ううん」


そんな風に思わせる前に告げるつもりだったのにと頭を下げる俺に、此ればっかりは仕方がないからと自嘲気味に言う。

「付き合うの?」と言う質問には少し慌てて、「まだだ」と答えた。

まだ、そんなんじゃねぇ。

まだ伝えても居なければ、手前ぇの気持ちも不確かなままだ。

相手の気持ちだって……、そう言えば、修兵は莫迦だなぁと笑われた。


「修兵が断られるわけ無いじゃない」

「……つったってな」


もしも気持ちがハッキリしたとしてもだ。

新入隊士で平隊士。

そんな彼女が急に俺なんかに云われても、萎縮しちまうだけじゃないのかと思う。処か、告白なんてしたら、俺を好きでも無ぇのに付き合うとか言い出すんじゃないかとか、考え出したらキリがねぇ訳で。


「其れに、俺がちゃんとしてからじゃねぇと相手にも悪ぃ……っ、いや!そんなつもりで言った訳じゃねぇから!」


ちゃんとしなきゃならねぇのは、俺の此の不可解な、はっきりしねぇ気持ちで、


紗也との事を言った訳じゃねぇ。


此れじゃあまるでと慌てて言葉を切って、叫ぶように告げてももう遅ぇ。

失言以外の何物でも無かったと自分に舌打った。


「………本当に、莫迦だなぁ」

「紗也……」


恐らく情けねぇ、とてもじゃねぇが他人には見せられねぇ顔を晒す俺に、


「ちゃんと解ってるよ……」



『莫迦だなぁ、修兵は……』



「っ………」


いつものように。

俺の一番好きだった笑顔で、紗也が優しい言葉をくれた。







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