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  02


恐らくは当事者の知らない所で。

修兵と私が別れたって噂はどんどん広まって、流石、有名人は違うなと変なところで感心してしまった。


修兵が、本命だった乱菊さんに受け入れて貰ったとか、やっと目が覚めたとか。

市丸隊長が消えて……、と、不本意な内容までを含んだ其れは、当人達の与り知らぬ第三者の間だけで広まっているのが唯一の救いか。


「いい加減にして下さいっ!」

「っ……」


そんな下世話な集団の中、バンッ とテーブルを叩いて立ち上がったのは六番隊の隊士達で、噂の矢面に立つ私を庇っては心配してくれている。


「私は大丈夫だから」

「でもっ……」


ね?と宥めて、ありがとうと微笑むのに、私達は嫌ですと泣きそうな顔をするから、ごめんねともう一度微笑んで返した。


『俺が檜佐木先輩に言って……』

『本当に大丈夫ですから』


阿散井副隊長も、もうずっと眉間に皺が寄ったままで、私の事なんかでと思えば申し訳無く思う。

噂は悲しいモノばかりだったけれど、強ち嘘ばかりでは無いから余計に辛い。


『終わったのは本当ですから……』

『紗也?』


あんなに目立つ二人が一緒に居て、目に付かない訳が無い。

寄り添うように並んだ二人はお似合いで、乱菊さんは本当に綺麗で……


誰だって、叶うなら彼女を護りたいと願うんだろう。


修兵が乱菊さんに憧れていたのは知っている。

でも、私を選んでくれたから。
長く一緒に居てくれたから……

乱菊さんは憧れなだけで、私を好きでいてくれているんだと信じて疑いもしなかった。


「のに、なぁ……」

「紗也、さん?」

「何でもない」


心配そうな顔をして覗き込む後輩に、今の出来る限りの笑顔で返す。


『私は、其のつもりでいますから』

『其のつもりって、おいっ……』


私を本当の意味で傷付けたのは、心無い噂なんかじゃ無かった。

こんな形で、お前はもう当事者でも何でも無いんだと知らしめる。

修兵からの、無言の意思表示だった。


悪気が無いってところがまた悪い。


『もう、ちゃんと理解してますから……』


もう少し。
後少しで終わりにする。

今は、修兵がくれた其の準備期間だとでも思えば良い。


本当に、嫌になる。


きっと修兵は、其の事にも気付いてくれてはいない。

其れは残酷な事だと嘲笑えた。


付き合って、こんなに長く一緒に居て、初めて修兵を憎んだ。


有ると思うから辛くなる。


なら、私達は終わっている。そう思えば、こんなにも心は穏やかだと知った。


だからもう、良い……。


私はきっと笑って其の日を受け入れられる、そんな気がした。







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