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  04


『そろそろ、片付けに行けそうです』


其れは、決して安い精神論なんかではなくて、物理的事情から来るものだったと強がっても良いだろうか……。


送った電信への返信は、『了解』を告げるだけの負けず劣らずのもので。

離れてしまった二人の距離を思い知っただけ……。


また精神論かと、自嘲だけが洩れた。








一月ぶりに入った二人の部屋は、出て行った時のまま、全てが何一つ変わらずに其処に在って、時の流れを否定する。

其れが、私を辛くした。


錯覚する。
保ち続けた平静を揺さぶる、必然だったモノたち……。


落ち着かせる為の呼吸でさえも、修兵を感じて泣きたくなった。


「紗也……」


大丈夫かと問われて首を振る。


「大、丈夫です」


阿散井副隊長に来て貰って良かったと、息を細く吐き出しては震える呼気を整える。

もしも一人だったなら、私は此処で、何も出来ずに泣き続けて居たに違いない……。


失くしたモノに絶望して

まだ、こんなにも、私だけが痛いんだと……







修兵と初めて会ったのは、新入隊士として九番隊へと配属された日。

修兵が副隊長に就任して初めての新入隊士が私で。

既に雲の上の人だった修兵に、私が恋をする訳が無かった。





入隊して直ぐの頃は上席の方と接する事も多い。

挨拶回りに始まり、適性検査、諸々の指導……。

何かが変だと思ったのは、全ての新入隊士から指南役が外れて更に一月も経った頃。


『東仙隊長、あの……』

『どうかしたかい?』

『どうして私だけ、指導の上官が外れないんでしょうか……』

『……其れは困ったね』


私に何か問題でも有るんでしょうかと意を決して訊ねた問いに返された、何処か呑気な口調に言葉が詰まる。

春からずっと、私には檜佐木副隊長が付いて下さっていた。
羨ましいと言われながらも、私には其れが居たたまれなくて辛くて……。


『どうしてだろうね、檜佐木』


とうとう溢れ出た涙に、困ったように眉を寄せた隊長が、此処に居ないはずの人を名を呼んだ。


『そんな所で心配そうに見て居ないで、入って来るといい』


東仙隊長の言葉で、其の霊圧と共に姿を現した檜佐木副隊長は、とても罰の悪そうな顔をされて居て……


『東仙隊長、少しだけ四宮をお借りします』

『えっ?あの、檜佐木副隊長……っ?』


東仙隊長にたった一言だけを告げて、徐に腕を取られて連れ出された。


『隊……っ』


慌てて振り返った東仙隊長は、大丈夫だよと優しく微笑んでいて。


『…………』


戻した視線の先、振り向かない檜佐木副隊長の横顔は、耳まで紅かった……。







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