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  02


『まるで家族みたいだな』


一緒に暮らし始めて少し経った頃。

修兵が私の頬を撫でながら優しく言った。


其の言葉が嬉しかった。

幸せだと信じていたあの日の私を、今、何度思い返してみたって、


莫迦で、愛しい。






『何処に行く気だよ……っ』



本気で言って居る修兵は、本当に性質が悪いと思った。

じゃあ、行くねと背を向けた私に掛かった修兵の声が、今までと何も変わらない優しさを紡いだからだ。


本当に、莫迦だなぁ……。


其れが私を余計に辛くすると気付かない。


こんな時間にと叱って貰っても、私から洩れ出るのは苦笑いだけで。

其れが、修兵の気に召さないんだって解って居ても……。


出て行こうとしてるんだよ。


『此処はもう、私の家じゃないでしょう?』


もう、私が居て良い場所じゃないんだから……。


今、出て行くと言う私を引き留める此の人は誰だろう。

いつから修兵は、私を女として見なくなったのか。

あんな、笑顔で別れを告げさせてしまうような。
こうして、私を絶望へと貶めるような……


私はいつから、修兵の中で、女じゃなくなっていたんだろう。


修兵との日々は穏やかで優しくて、変わらない毎日がずっと続いて行くと信じていた。

其れは、いつから私だけの想いに変わっていたんだろうか……。


「修兵……」

「紗也?」


私は、修兵だけが好きだよ……。


今も何も変わらない。
修兵だけを見て来た。

当たり前に在った想いを口にする必要なんて無かった。

其れは、修兵がくれる安心なんだと思っていた。


今も、胸が締め付けられる程に恋しい、なんて……


私だけがあの日のまま、変われないままだ……。



『じゃあ……』


弛んだ掌に、今度こそと踵を反して言葉に詰まった。



『行って来ます』



其れ以外の言葉なんて……


『……今まで、ありがとう』


私は知らなかった。







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