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  04


『責任を取らせて下さい』


恋次君はそう言った。

鈍器で、殴られたような気がした……。






酔っていた。

と言っても、其れは不覚では無かったとはっきりと言える。

誘ったつもりも誘われた覚えもない、其れはいつもの飲み会のいつもの帰り道。


私の隣を歩くのは恋次君で。
いつからか、私を部屋まで送り届ける役目は恋次君のものとなっていて……。

何故、なんて疑問は無かった。

其れが当たり前だと、思い込んで居たんだと思い知るまでは……。


何を言わなくても寄り添って歩き出せる程、其れが私達の当然となっていると信じていた。


いつもは左に折れる道の手前で、不意に立ち止まった恋次君の強まった掌の意味を知っていた気がした。

引き寄せる腕に逆らう事無く収まれば、躊躇う事なく降り注いだ口唇。

其の数瞬後に訪れた揺れた感覚に、恋次君が瞬歩で移動した事を知った。


恋次君の部屋の扉に押し付けるように囚われて、貪るような口付けを交わして。

圧し掛かる恋次君の重みさえも愛しいと思う。

其のまま、解放されない熱に溺れるように抱かれては、堕ちた。

私は……


彼の腕の中で目覚めたあの時でさえ、幸せだと、思い込んでいたんだ……。



目が覚めて、一番最初に見たのは恋次君の顔で、口唇が触れそうなくらい近くに在る恋次君の整った顔に微笑んで、私はそっと其の薄い口唇に指を這わせた。


『……紗也さん?』

『恋次、君……』


私を抱き締めて眠っていたせいで、間を空けずに目を覚ましてしまった恋次君の私を茫然と見詰める瞳に気付いてサ――ッと熱が引いて行くようだった。

お互いに言葉を発せないまま、沈黙だけが流れていた……。



責任を取らせて下さいと恋次君が私に頭を下げて来たのは、着衣を整えた其の後だ。



責任を取らせて……



恋次君の言葉が胸に突き刺さるようで、ぐっと込み上げるものに掌を握り締める事で何とか耐える。

其れはそういう事なんだと叩き付けられた事実に、胸が張り裂けるような痛みを感じた。


『……ごめんなさい』

『紗也さん……?』

『恋次君が、責任を取る必要なんてないから』


私達は酔っていた。


其れだけで、こんなのは……


『別に、大した事じゃないから……』


好きだったから……


両想いなんだって勘違いしていた、私が莫迦だっただけ……。

だから恋次君が、罪悪感を感じる必要なんてない。

況してや、責任なんて……


そんな事をされても、余計惨めになるだけだ。


『最、悪……』


自分の莫迦さ加減に呆れてしまう。
せめて泣き顔を晒すなと奥歯を噛み締めた。


顔も見れずに、立ち上がって部屋を出る私に、恋次君は其れ以上何も言わなかった……。





あの日から一週間。

恋次君に彼女が出来たらしいとは噂に聴いた事。
噂処かご本人に、しかも恋次君付きで遭遇しちゃったけれどと自分のタイミングの悪さに虚しくなるけれど……。


「莫迦みたい……」


恋次君が好きだった。

もう伝える事も出来ない言葉は、まだ私の中で燻り続ける。

振られたって、ちゃんと伝える事が出来たなら、終わりにする事だって出来たのに。

莫迦な私は、こうして終わらせる事も出来ないまま、報われない想いを引き摺り続けているだけだ。





酔っていた。

訳では無かったのは私だけ。


好きだったのも、私だけだ……


「――――……っ」

「何一人で泣こうとしてんだよ……っ」

「っ……」


涙が溢れた瞬間、不意に乱暴に引き上げられて瞠目した。


「修、兵……?」

「だから溜めてないで話せっつったよな」


お前の耳は飾りかと、少し苛立たし気に吐き出した修兵が、


「何で……」

「修、兵……?」



俺じゃなかったんだよ……



其の表情を、苦しげなものに変えていた。







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