恋次先輩の誘いに、今日は残業が有ると伝えれば、また今度なと笑って自隊に戻って行かれた。
恋次先輩は私なんかの何倍も忙しいというのに、毎日時間を作っては少しでも顔を出してくれている。
私が作るようになったお弁当を、出来る限り一緒に食べてくれている……。
私は恋次先輩の背中を見送りながら、申し訳ない気持ちで一杯になって、振り返した手を下ろせないまま握り締めて、いつまでもその後ろ姿を見詰めていた。
ごめん、なさい……。
恋次先輩の誘いに頷けば、いつも嬉しそうに笑ってくれるのに。
それだけで幸せになれるような、笑顔をくれるのに……。
……ごめんなさい。
そう思えば泣きそうになって、届くはずのない言葉を何度も何度も繰り返した。
私も、恋次先輩と一緒に居たい。
いつでも、傍に……
「紗也……」
「檜佐木副隊長……」
振り返れば、困ったような顔をした檜佐木副隊長が苦笑いしながら私を見詰めていた。
「すみません……」
こうして檜佐木副隊長にも迷惑を掛けている。
檜佐木副隊長だって、仲の好い恋次先輩に嘘を吐くのは嫌だろう……。
そう思えば本当に申し訳なくて、キュッと口唇を噛み締めて俯いた。
そのまま顔を上げられずに居れば、怒ってる訳じゃねぇぞと頭を撫でられた。
九番隊は忙しい。
けれど、会おうと思えばもっと一緒に居られる。
忙しいを理由に、私がそうしないだけで……。
「阿散井が嫌な訳じゃねぇんだろ?」
「そんなんじゃ……っ」
「なら、今は紗也のしたいようにしたらいい」
本当は言いたい事が有るだろうに、俺の事は気にするなと、理由も聞かずに受け入れてくれる。その優しさに甘えてしまっている。
私も、恋次先輩ともっと一緒に居たい。
恋次先輩の誘いを断る度に、喉も、胸も、震えるくらいに痛くなる。
遠ざかる背中を追い掛けて、恋次先輩に触れたいと思う。
優しい腕の中に、身を沈めたいと思う……、のに。
私は、ごめんなさいと嘘を吐く。
恋次先輩に嘘を吐いてまで距離を置く、私は……
「紗也……。お前その顔、他所ですんなよ?」
「やっぱり、見られないですよね……」
「違ぇよ……」
咄嗟に顔を隠すようにして蹲る私に、檜佐木副隊長が呆れたように呟いた。
違わないよ……
私は……。
恋次先輩が欲しいと叫ぶ、この声も顔も、心も。
恋次先輩に見られたくない……
曝すのが怖いんだ……。
どうして今まで平気で居られたのか、不思議でならない。
私はどんな風に、どんな顔で恋次先輩の前に立っていた?
それすら思い出せないくらいに、今は……
「俺は阿散井に殺されたくはねぇぞ……」
「何ですか、それ……」
紗也――…その声に、発情する
恋次先輩の瞳に映る
私を消したい――…prev /
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