紗也が俺を好きじゃねぇなんて。
どの口が言いやがると、本当に俺は莫迦じゃねぇのかと改めて思う今日この頃。
あの後、もう他に云いたい事は無ぇのかよと訊いた俺に、あんな所じゃ嫌ですと真っ赤になった紗也に瞠目した。
そっちの嫌かよ……とちょっと安心する辺り、俺はまだまだ反省が薄いらしい。
「お前ぇはよ、初めての女掴まえて資料庫ってどうよ」
「…………」
俺はまた、正座させられる勢いで檜佐木さんにくどくどと説教を喰らっている……。
紗也から聞いた訳じゃねぇぞって、まだ何も言ってねぇし!
思ったけどよ……。
つーか、何でアンタが知っている!
そう顔にでも出ていたのか
「髪は乱れちまってるわ、袴の裾に埃は付いてるわ、古い紙の匂いがしたんだよっ」
犬かっ!!!
と思わず叫んだら、犬は手前ぇだと撲られた……。
よく考えなくても、あんな所で及ぼうとした俺に反論の余地はねぇ。
寧ろ、アレでよく紗也に捨てられなかったなと身震いするくれぇだ。
今回ばかりは一言も返さずに黙ったままの俺に溜め息をくれて
「あんまり莫迦な事ばっかやってやがると、いつか紗也に捨てられるぞ」
と冷ややかな視線で見下ろされた……。
寧ろ捨てられちまえと身も蓋もねぇし……
身も蓋もねぇ……が、今回ばかりは肝に命じておこうと神妙に受け留めた俺だった……。
「しかも、まだヤってねぇのかよ……」
「だから何でアンタが知ってんすかっ!!!」
「恋次先輩っ」
お待たせしましたと笑顔で入室して来たのは紗也で。
こうして笑顔を向けてくれるだけで、温ったかい気持ちになる俺がいる。
失くさないで良かった。
紗也で良かったと心底思って見詰めれば、照れ臭そうに微笑んだ。
可愛い過ぎる……と、惚けてる場合じゃねぇ。
それじゃあ行くかと促して、いつものように横に並んだ俺の手を、紗也がギュッと握って来た。
「紗也……?」
吃驚して目を向ければ、首まで真っ赤に染めた紗也が俯いていて……
「恋次先輩は私のだって、みんな解るかなって……」
「…………」
「あ、の!恋次先輩が嫌なら止めますか…ら……」
何も言えねぇ俺を見て、またおかしな勘違いをした紗也が慌てて手を離すのを捕まえる。
「もう…、死ぬ……」
絶対に……
こいつに捕まってんのは俺の方だ――…
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