04.傷の男
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「二人とも死んだわ」
ホークアイ中尉の淡々とした台詞が、シャオリーの頭の中で幾重にも反響した。
世界が、急速に遠のいていく気がした。
タッカーが、ニーナが、死んだ――
事件の翌早朝、二人の今後の処遇を確かめるために、三人は東方司令部へ向かった。
エドの顔色は真っ白だった。
シャオリーが大丈夫かと問うと、嫌な夢を見た、と呟くような返答があった。
夢なら私も見た。
けれど、いい夢なのか悪い夢なのか、私にはわからないや。
そう言おうかと思ったが、これ以上口を利くのもはばかられたので、止めた。
昨夜から降り出した雨は、今日も堅いアスファルトを濡らす。
「正式に言えば『殺された』のよ。だまっていてもいつかあなた達も知ることになるだろうから、教えておくわね」
それだけ言うと、突き放すように中尉は歩き出した。
「そんな…なんで…誰に!!」
エドは震える声で食い下がる。
「わからないわ。私もこれから現場に行くところなのよ」
「オレも連れてってよ!」
「ダメよ」
「どうして!!」
中尉は立ち止まって首だけ振り返った。
「見ない方がいい」
中尉の有無を言わせぬ強い視線に、エドは押し黙った。
「私は!」
シャオリーは中尉に向かって叫ぶ。
「私は、それでも…!」
それでも、何だ?
自分自身に問う。
それでも、ニーナに会いたい?
可愛いニーナ。
優しいニーナ。
自分の妹みたいに思えたニーナ。
「お姉ちゃん!」とこちらに駆けてくる彼女の姿が、今でも鮮明に思い出される。
けれど、彼女は彼女ではなくなってしまった。
違う、そんなことはない。
合成獣になっても、彼女は彼女だ。
私に花冠をくれた。
優しいあの子のまんまだ。
本当にそう思っている?
彼女は失われた、あの時、お前はそう思ったのではないか?
違う、違う。
何故殺された?
どうして殺されなければならなかった?
見ない方がいい。
中尉は言った。
多分、普通の殺され方ではないのだ。
どうしてあの子ばかりがこんな目に遭わなければならないのだ。
誰がそんな惨いことを。
生きてさえいれば、いつか元の姿に戻る道もあったかもしれないのに。
会いたい。
会わなければならない。
どんな姿でも、見届けてあげなければ。
そうだ。
そうしなくちゃいけないんだ。
耐えられるの?
そんな悲惨な状態のあの子を見て、自我を保っていられるのだろうか。
耐えるんだ。
いや、受け入れるんだ。
もうそれしか、あの子にしてあげられることは残っていないのだから。
「一般人に見せるわけにはいかない。わかって」
シャオリーはビクリと肩を震わせる。
そして、そのまま顔を伏せた。
中尉は、今度はエドの制止にも振り向くことなく、歩いて行ってしまった。
シャオリーは拳を握った。
顔がカアッと熱くなった。
ホッとした。
中尉の言葉に。
ニーナの死に立ち会えないことに。
――お前はそれで平気なのかよ!?ニーナと一番仲が良かったのはお前だろう!!
最低だ。
私は、弱い。
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