12.無骨な亡霊、再来
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「これからダブリスを出る?」
「ああ。ラッシュバレーに寄ってくから、もう少しかかると思う。まだセントラルにいるか?」
「うん」
「オレたちもセントラルに向かう」
「収穫はあった?」
「まあな。着いたら話すよ」
「楽しみにしてるわ」
シャオリーは、大佐の家にかかってきたエドからの電話を切った。
あいつらが帰ってくる。
この事実は、本人が自覚している以上にシャオリーを元気づけた。
口振りからすると進展もあったようだ。
一歩前に進めるかもしれない。
自然と笑みが浮かんだ。
だが「てっきり中佐の家にいると思ったよ。何で大佐といるんだ?」と無邪気に問う彼らは、まだ中佐の死を知らない。
「こっちに戻ってくるのかね?」
「そうみたい」
大佐が部屋着に着替えて戻ってきた。
セントラル勤務になって間もない彼は、多忙な日々を送っていた。
今日はお目付け役のホークアイ中尉が休みなのをいいことに、部下に執務室の整理を任せて帰ってきてしまったらしい。
とんだ上司だ。
シャオリーは淹れておいたコーヒーを差し出す。
「ああ、ありがとう」
テーブルに着く大佐に合わせて、シャオリーも椅子に腰を下ろした。
コーヒーを飲んで一息つく。
「嬉しそうだな」
視線を上げると、大佐はフッと笑った。
「何が?」
「彼らが帰ってくることがだよ」
「収穫があったって言ってたからね」
「それだけかね?」
シャオリーは口を尖らせる。
「どういう意味よ」
「いや、きみの笑顔を見たのはずいぶん久しぶりだからね」
シャオリーはキョトンとした。
「別にそんなことないじゃない」
大佐は笑みと共にため息を落とす。
「きみは自分で思っている以上に憔悴していたんだよ」
「そんなことないわよ」
大佐は肩を竦めた。
「少し前までメソメソ泣いていたと思ったが?」
「泣いてないわ!」
大佐は真顔になる。
「弱さを認めることは恥ではないよ」
シャオリーはムッとして大佐を睨みつけた。
「このくらいじゃへこたれないわよ!だって、まだ立ち止まるわけにはいかないんだもの。私は大丈夫よ!中佐だって…!」
久しぶりに中佐の名前を口にして、急に喉が詰まる。
次の言葉が出ないうちに、電話ベルが鳴った。
大佐が受話器を取る。
ホークアイ中尉からのようだった。
「中身のない鎧?アルフォンスではないんだな?ほう、アルフォンスを知っているのか。何?バリー・ザ・チョッパーを名乗ってる?」
シャオリーは勢いよく立ちあがった。
「わかった。すぐ行く」
ほら、運だって向いてきた。
――中佐だってきっと、応援してくれる。
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