08.鋼のからだ
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あの得体の知れない連中は何者だ、という思いは、アルの様子を見ているうちに脇に追いやられた。
「よかったわね、エド大丈夫そうで。ここもロス少尉の知り合いの病院だっていうし、きっといいように取り計らってくれるわ」
そうだね、と返すアルの声はか細い。
話も聞いているのかいないのか。
二人は病院の廊下の長椅子に腰を下ろしていた。
「なに?ブロッシュ軍曹に殴られたのがそんなにショックだったわけ?」
シャオリーはわざと明るい調子で笑う。
病院に着いてすぐ、二人は少尉と軍曹にこっぴどく叱られた。
子どもだけでする行為ではない、もっと大人を信用して頼れ、と。
彼らのような大人だったら頼ってもよかったかもしれないと思った。
「ううん。二人が言ってたことは正しいよ。迷惑かけちゃって悪かったな」
会話のキャッチボールは出来ているし、言っていることも普段のアルらしい。
けれど、その言葉はどこか浮いていて、感情は希薄だった。
アルの心は先ほどから一度もここへ戻ってこない。
「アル」
シャオリーはアルを覗き込む。
一拍遅れてアルの反応が返ってきた。
「なに?」
シャオリーはため息をついた。
「なに考えてるの?」
「…別に、なにも」
「うそ」
軽くアルを睨む。
「なんで黙ってるの?なんで一人で考え込んでるのよ?」
アルは俯いたままだ。
「アル、前に言ったわね。アルがすごく深い穴に落ちた時は、きっとエドが助けてくれる。エドがその穴に落ちてしまったら、アルが助ける。あんたたちは、そうやって生きてきたって。今、エドはアルが穴に落ちてしまっていることを知ってるの?」
「…兄さんのところへ戻ろう」
声の調子から、アルが打ち明け話をしに戻るのではないということは明らかだった。
シャオリーは遠ざかっていくアルの背中を眺める。
「バカね…」
後を追ってゆっくりと歩き出した。
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