07.マルコーの言葉
(2/10)
室内を重苦しい沈黙が満たした。
想像だにしなかった真実に、誰もが絶句している。
シャオリーが苦々しさを押し出すように吐いた息の音が、嫌に大きく響いた。
沈黙を破ったのは、エドだった。
蹲ったまま、エドは自身に語りかけるように呟く。
「たしかにこれは知らない方が幸せだったかもしれないな」
アルは黙したまま動かない。
ロス少尉とブロッシュ軍曹も、強張った表情のまま固まっていた。
「この資料が正しければ、賢者の石の材料は生きた人間…しかも、石を一個精製するのに複数の犠牲が必要ってことだ…!」
エドの金色の瞳には、やり場のない怒りと深い絶望が映っている。
少尉と軍曹は、我に返って声を荒げた。
「そんな非人道的な事が軍の機関で行われているなんて…!」
「許される事じゃないでしょう!」
軍で密かに賢者の石の研究が行われていたということは、すなわち、軍で秘密裏に人体実験が行われていたということと同義だ。
自分たちの所属する組織にそんなおぞましい闇が隠されていたなんて、にわかには信じ難いだろう。
荒ぶる彼らを制するように、エドは少尉と軍曹の名を呼んだ。
その声は擦れている。
力なく落とした左手が、床に当たって乾いた音を立てた。
「この事は誰にも言わないでおいてくれないか」
視線は伏せられたまま、ただ一点に向けられている。
焦点が合っているかどうかはわからない。
軍曹は食い下がった。
「しかし…」
「たのむ」
たのむから、聞かなかった事にしといてくれよ。
消え入るような声で縋るエドに、彼らはそれ以上何も言うことが出来なかった。
(2/10)
*←|→#
[bookmark]
←back
[ back to top ]