03.錬金術師の苦悩
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それでも三人は、その場から動かなかった。
エドは目に見えて憔悴していて、危うげな印象を与えた。
「大佐の言ったことは正しいわ。エドもアルも、ここで立ち止まっちゃいけない。前見て歩かなきゃ」
シャオリーはポツリと呟く。
しかし、エドからもアルからも返答はない。
「……もう、全部終わってしまっていた。私たちには何もできなかった。しょうがなかったのよ」
するとエドがピクリと反応した。
「……そんな簡単に割り切れるかよ」
シャオリーは淡々と答える。
「割り切るの。じゃなきゃ、先へは進めない」
シャオリーの言葉に、エドが声を荒げた。
「お前はそれで平気なのかよ!?ニーナと一番仲が良かったのはお前だろう!!」
「兄さん」
アルに止められ、エドはハッと口をつぐむ。
シャオリーは堪らず視線を伏せた。
「私は…今までずっとこうやって生きてきた。
先のことだけを見て、過去は振り返らない。
心に空いてしまった穴には蓋をして素通りするの。
じゃなきゃ……いちいち穴を覗き込んでたりしたら、前に進めないじゃない!
私は前に進まなきゃいけないの!」
それだけ言うと、シャオリーは黙りこむ。
アルはそんなシャオリーにそっと声を掛けた。
「確かにね、大佐やシャオリーの言うように、割り切って先に進むことも必要だと思う」
シャオリーは顔を上げてアルを見据える。
「だけど、辛くて、苦しくて、立ち止まってしまっても、向き合わなくちゃならないこともあると思うんだ」
アルの声は、とても優しくて、意思に満ちていた。
「ボクたちはニーナを…助けられなかった。
このことはどんなにもがいてももう変わらない。
だけど…だから、ボクたちは多分、それを受け止めなくちゃならないんだ。
ごまかしたり、見ないふりをしてしまったら、きっと大切なものまで見えないまま終わってしまう。
それじゃダメなんだ」
さっきまであんなにボロボロだったのに、エドも瞳に光を宿し、小さく頷いている。
「たとえ、その穴がすごく深くて、ボクがそこに落ちてしまっても、きっと兄さんが助けてくれる。
兄さんがその穴に落ちてしまったら、ボクが兄さんを助ける。
ボクたちは、そうやって生きてきた」
シャオリーは二人を見つめる。
きっと本当に、この二人はそうやって生きてきたのだろう。
互いに互いを支え合い、高め合いながら。
だが、シャオリーは独りきりだった。
穴に落ちても、助けてくれる人間はいない。
ホンユイでさえ、皇族抗争の前ではシャオリーの隣には立てなかった。
だけど今は。
今なら、同じ想いに心を痛める人がいる。
同じ想いで、泣いてくれる人が傍にいる。
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