03.錬金術師の苦悩
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エドとアルとシャオリーは、雨の中、東方司令部の階段に座り込んだまま動かずにいた。
沈黙を続ける三人の元に、ロイとリザが近づいてくる。
二人の会話が、近づくにつれて聞こえてきた。
「彼の選んだ道の先には、おそらく今日以上の苦難と苦悩が待ちかまえているだろう。むりやり納得してでも進むしかないのさ」
ロイは階段を下り、エドの横までやってきた。
「そうだろう、鋼の」
ロイはエドに問い掛ける。
しかしエドは一点を見つめたまま動かない。
「いつまでそうやってへこんでいる気だね」
エドはそれでも顔を上げない。
ただ一言「うるさいよ」と擦れた声で呟いた。
「軍の狗よ、悪魔よとののしられても、その特権をフルに使って元の身体に戻ると決めたのは君自身だ。これしきの事で立ち止まってるヒマがあるのか?」
ロイはエドの隣を通り過ぎながら再び問う。
エドは自分のコートを握りしめた。
「『これしき』……かよ」
ようやく感情の起伏を見せたエドをロイは振り返る。
エドは絞り出すように言葉を零した。
「ああそうだ。狗だ悪魔だとののしられても、アルと二人、元の身体に戻ってやるさ。だけどな」
エドの声が少しずつ大きくなっていく。
「オレたちは悪魔でも、ましてや神でもない」
衝動に突き動かされるように立ち上がった。
「人間なんだよ!たった一人の女の子さえ助けてやれない!」
そこまで言うと、耐えていた涙が零れ、顔がくしゃくしゃに歪んだ。
「ちっぽけな人間だ……!!」
エドの言ったことが真実だと、ロイ自身もよくわかっているのだろう。
肯定はしないが否定もしない。
ただ一言、労わりの言葉を掛けて去っていった。
「カゼをひく。帰って休みなさい」
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