03.錬金術師の苦悩
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その動物を目にした瞬間、シャオリーの心臓が大きく脈打った。
全身が粟立ち、奥歯がカタカタと鳴る。
血液が波打って逆流し、サッと引いた。
シャオリーは、何故こんなにも気分が重かったのか、やっとわかった。
この家に来た時から、嫌な気配がしていたのだ。
得体の知れない、負の気配。
シャオリーの思考を停止させ、真実から遠ざけていたのは、一重にシャオリーの防衛本能だ。
シャオリーは無意識にその事実に蓋を被せていたのだ。
「人語を理解する合成獣だよ」
タッカーの声が、シャオリーの耳にまとわりつく。
「見ててごらん」
三人を促すと、タッカーは合成獣に話しかけた。
「いいかい?この人は、エドワード」
すると、合成獣はタッカーの言葉に反応し、ちょこんと首を傾げる。
『えど わーど?』
タッカーは合成獣の頭に手を置いた。
「そうだ。よくできたね」
『よく でき た?』
二人のやり取りを見ていたエドは目を丸くした。
「信じらんねー…本当に喋ってる…」
「あー、査定に間に合ってよかった。これで首がつながった。また当分、研究費用の心配はしなくてすむよ」
タッカーの言動一つ一つが、シャオリーの神経を逆なでする。
この男は、一体何を言っているのだ。
頭がわけのわからない感情で膨張し、思考を鈍らせた。
エドは興味津々で合成獣に近づいた。
自分の名前を何度も呟く合成獣をまじまじと見つめる。
しかし、その合成獣が突然、違う単語を呟いた途端、エドの顔色が変わった。
『お にい ちゃ』
ダメだ。
シャオリーは思った。
これはもう、起こってしまったことだ。
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