02.綴命の錬金術師
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「おい、鋼の」
「何だよ?」
「ずいぶんと彼女に気を許しているようだな。人体練成の話までしているとは驚いたよ」
タッカーとの挨拶の時の話をしているのだと気付いたエドは、頭を掻いた。
「あれは話したっつーか、横で聞いてたっつーか…」
「彼女をそこまで信用する理由は何かね?」
ロイの軽い口調の奥に真剣な色が伺えたので、エドはしばらく黙り込み、言葉を探す。
そして、視線を前方に向けた。
「リオールでさ、結果的に俺たちが希望を奪っちまった人に、あいつ言ったんだ。
『私も、大事なものをたくさん失った。もう二度と戻って来ないものもある。だけど、取り戻せるものもある。だから私は前だけを見て進むの』
ってな」
そこまで言い終えると、エドはまた沈黙してしまった。
「それが理由か?」
「ああ」
「フ…」
「何だよ?文句あっか!?」
「彼女も似たようなことを言っていた」
「あいつが?」
ロイは頷く。
「君たちをタッカー氏に任せて仕事に戻る前に、彼女に聞いたのだよ。何故、君たちの旅について行くことにしたのか、とね」
「シャオリー、何て?」
それまで黙っていたアルが尋ねる。
「『エドが言ったの。立って歩け。前へ進め。あんたには立派な足がついてるじゃないかって』
…だそうだ」
ロイは、エドの肩を叩いて離れてゆく。
「ふーん」
エドはそっけなくそう答えたが、アルにはそれが照れ隠しだとすぐにわかった。
「ああ、タッカーさん。もうすぐ査定の日です。お忘れなく」
ロイがタッカーを振り返り、事務的に告げる。
「…ええ、わかっております」
タッカーも事務的にそれに応じた。
用件を伝えたロイは、まだニーナとじゃれているシャオリーに声を掛け、タッカー家を後にした。
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