12.無骨な亡霊、再来
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「バリー・ザ・チョッパー、最後にひとつ訊こう」
大佐が改めて口を開いた。
心なしか声のトーンが低い。
その理由は、次に続く言葉ですぐにわかった。
「一か月と少し前、セントラルの電話ボックスで軍将校を殺害したのはお前か?」
ホークアイ中尉とファルマン准尉は、固い表情で視線を交わす。
シャオリーも息を飲んだ。
大佐の眼光があまりに鋭く、冷たかったからだ。
バリーも大佐の威圧感に押され、しどろもどろで答える。
「知らねェよ!そいつ、斬り裂かれてたのか?」
そうだ。
こいつの性癖からして、人を殺すなら斬り裂くはずだ。
大佐もそれをわかっているので、深く問い詰めることはしない。
「いや、知らないならいい」
腰かけていた木箱から立ち上がった。
話は終わりだ。
大佐はファルマン准尉を振り返る。
「さて、ファルマン准尉、帰っていいぞ」
「はっ…」
「そして今夜聞いたことは忘れてくれ」
ファルマン准尉はポカンとする。
「わかるだろう?危ない橋だ。私に付き合ってお前まで渡る必要はない」
准尉はバリーに視線を遣った。
「ふむ…確かに」
視線を伏せる。
「しかし大佐。残念なことに私は記憶力がよすぎましてね。忘れろと言われても無理な相談ですよ」
そして不敵に笑った。
「乗りかかった船です。行くところまで付き合いますよ。私に出来ることがあればなんなりと言ってください」
「ファルマン…」
危険だと知りながら、ついてきてくれる部下が大佐にはいる。
誰にでもそこまで忠義な部下がつくわけではない。
「すまんな、感謝する」
ホークアイ中尉を含め、信頼関係を確認し合った瞬間だった。
が、その後のあまりにちゃっかりなファルマン准尉の扱いに、シャオリーは苦笑いするしかなかった。
「では早速だがこいつを頼む」
「は?」
「一般市民および我々以外の軍関係者に見つからん場所に拘束しておけ!私は調べ物があるので軍に戻る!ああ、お前の休みは取っといてやるから、バリーをしっかり見張っとけよ!」
矢継ぎ早にここまで言い終わった時、大佐と中尉は既に戸口の前にいた。
片手を上げて辞意を示す。
「頼んだぞ!」
「バリー!その人は斬っちゃだめよ!」
「シャオリー、きみは家に帰っていなさい」
言い終わるか終らないかのうちに、二人の姿は見えなくなっていた。
倉庫の中には准尉とバリーとシャオリーが取り残される。
呆然と立ち尽くす准尉の肩をバリーが叩いた。
「ま、仲良くやろうぜ、肉の硬そうなダンナ」
それがトドメとなったのか、准尉はがっくりと頭を下げる。
「ファルマン准尉、がんばってね」
シャオリーは、他人事なのをいいことに、感情のこもらない声で言い放った。
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