11.懺悔の夜
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大佐の家は広かったが、部屋に物は少なかった。
生活をするための最低限の家具しか置かれていない。
どうせほとんど家には戻らないだろうからな、と苦笑していた。
シャオリーには客間を提供してくれた。
六畳ほどあるだろうか。
品のいい絨毯が敷かれ、ベッドと化粧棚が用意されている。
女性仕様だわね、とシャオリーは大佐を一瞥した。
大佐はその視線に気付いてか否か、しれっと間取りの説明を続ける。
「とりあえずはこんなところか。質問はあるかね?」
「…食べ物は。この家の食材は好きにしていいのかしら」
大佐は失笑した。
「好きにしたまえ。というほど揃ってはいないがな。必要があればこれで買うといい」
シャオリーは黒い財布を受け取った。
豪儀な振る舞いに口を鳴らす。
「夫人には私から連絡を入れておこう。私はこれから仕事に出るが、きみはどうする?」
大佐に問われて、シャオリーは動揺した。
シャオリーは普段「どうする?」と聞かれて答えを思いつけないことはあまりない。
だが、今は咄嗟に何をしていいかわからなかった。
空白だったのだ。
そして、自分が未来に向かって思考を働かせる気力がないほどに疲労していることに気付く。
「寝る。疲れちゃった」
「そうか。ではシャワーでも浴びて身体を温めてから寝なさい。一晩中、外にいたのだろう?」
シャオリーはマジマジと大佐の顔を凝視する。
「大佐」
「なんだね」
「大佐って、ロリコンの気はないわよね?」
「………」
大佐が怒鳴り出す前に、シャオリーはシャワー室へと駆け込んだ。
身体が温まると、気分もいくらか落ち着いた。
大佐は既に仕事に出かけたようだ。
シャオリーは部屋に戻ってベッドに身体を投げ出した。
火照った頬が心地よい。
胸はシクシクと痛んだが、同時に、重りのように眠気がのしかかってきた。
横たわったまま、サイドボードに置かれた巾着に手を伸ばす。
雑然とした袋の中に指を這わせた。
探し物が手に触れた途端、背後から突かれたように心臓が脈打った。
そっと取り出して両手で包む。
――ニーナ、一人で作る!それで、お姉ちゃんのも作ってあげるね!
ニーナが編んでくれた花冠から作った栞。
こぼれ落ちそうなニーナの笑顔が浮かぶ。
――ほら、これやるよ。仲直りするのにいるんだろ。
中佐がくれたシラーのペンダント。
守られているようなあの眼差しを見るとホッとした。
二人とも、シャオリーにとって、とても大切な存在だった。
でも、今はもういない。
ジワリと目頭が熱くなる。
両手を包み込むように身体を縮めた。
疲れた。
頭が重い。
瞼も、重い。
そうだ。
こういう時は寝てしまうに限る。
ゆっくり眠って、後のことはそれから考えよう。
今は、それでいい。
だってまだ、立ち止まるわけにはいかないから。
涙が一筋頬を伝った時、シャオリーは既に眠りに落ちていた。
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