11.懺悔の夜
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――ねえ大佐。さっきまでここにヒューズ中佐が来てたのよ。
私なんかのこと心配して、わざわざここまで来てたの。
でも、あなたには内緒なんだって。
ヒューズ中佐が死んでしまったことにホントはすごく動揺してるあなたが、無茶なことをしないようにって。
最期の最期まで人のことばっかり。
ホント、バカみたいにお人好しよね。
私は、そんなあなたの親友を利用して、死なせたのよ。
「遠慮することはない」
「大佐。中佐が死んだのは私のせいよ」
大佐は目の色を変えた。
乱暴に肩口を固定され、そのまま激しく揺さぶられる。
「どういうことだ!?」
シャオリーが中佐に関する情報を持っているなどとは、露ほども思わなかったのだろう。
「全て話せ!場合によっては…」
いつも冷静なマスタング大佐が、ここまで激昂するのを初めて見た。
シャオリーは、ただ彼の瞳を見つめる。
「場合によっては?」
大佐は一瞬怯んで動きを止めた。
「…すまない、取り乱したな。だが、何か知っているなら話してもらおう。これは捜査の一環でもある。隠すとためにならないよ」
シャオリーは、消極的な脅しとも取れる大佐の言葉を静かに受け止める。
「捜査をするのは、警務部の仕事でしょ」
当然、わかっていてあえて言っているのだろう。
大佐の視線に力が加わった。
「私は、きみを不法入国罪で刑務所に送ることもできるのだよ」
一番の弱点を突かれたシャオリーだったが、心は穏やかだった。
もし仮にそうなったとしても仕方がない。
今は不思議とそんな気持ちだった。
「言わないわ。そう決めたの」
大佐は苛立ちの表情を見せた。
「何故だ」
「約束したから」
「約束?」
――今はまだ知るのは早すぎる。
――オレに会えばあいつはよけい無茶するだろうからな。
――あいつらのこと、頼んだぞ。
「そう。中佐と」
大佐は何か言いたそうに口を開く。
が、ヒューズ中佐の名前が利いたのか、逡巡の後、それを飲み込んだ。
「中佐は、大佐やエドたちなら、きっと辿り着くって言ってた」
「私と…鋼の?」
「そう」
大佐は探るようにシャオリーの顔を窺う。
しかし、シャオリーは話すのはここまでだと決めていた。
それを感じ取ったようで、大佐はため息をつく。
「…来なさい」
「…私は」
「いいから」
「……うん」
結局大佐の言葉に従ってしまったのは、このまま一人になるのが嫌だったからだ。
ずるいやつ。
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