12.流サワト
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マガナミを引き取ってから一週間が経った。
シカマルは任務を終え、夕暮れの里を歩いていた。
日を追うごとに暑さを増してゆく里。
しかし、夕方はまだまだ涼しい。
気持ちのよい風に軽く目を瞑ると、疲れが和らぐように感じた。
マガナミを自分の家に引き取った翌日、シカマルは五代目に経過報告を行った。
もう少し状況がはっきりするまで奈良家で預かろうと思うと告げると、綱手は短く同意した。
鉱山集落からの定期連絡にも、今のところ動きはないという。
短い事務連絡を終え、シカマルは火影の執務室を後にした。
にしても、どうにも扱いづらくて困る。
元々自分が人付き合いに長けた方だとは思っていないが、それを差し引いても、かなり対応が難しい部類ではないだろうか。
固い表情で視線を落とすマガナミを思い浮かべる。
目を覚ました時マガナミは、群れからはぐれた子羊のように、見知らぬ場所に取り残された子どものように、身を強張らせて小さくなっていた。
始めは、意識を失う直前に何かがあったのだろう、見知らぬ土地に警戒しているのだろうくらいに思った。
もちろんそれもあるだろうが、しかしどうやらそれだけでもないらしい。
あからさまな反応を示した「故郷」という言葉。
谷底に落ちたと話した時の悲痛な笑み。
生きなければと呟く口先が浮かべる絶望の色。
あの表情には何の意味があるのだろうか。
おそらくこの時が一番、彼女は感情を外に表していた。
次にマガナミを訪れたときはもう、その感情すらも内にしまい込まれ、上辺に残ったのは、どことなく漂う憂いの影と、控えめな怯えだけ。
話す言葉は最低限。
家に来てから聞いたあいつの言葉といえば、「はい」の一言くらいなものだ。
そこで気づく。
ああ、あいつ、態度ではあんだけ他人を拒絶してるくせに、人の意見に事実以外でNOって言ったこと、ねぇな。
人の意見には逆らわずに生きる。
あいつの処世術か。
何にせよ、あまり恵まれた生活は想像させないな。
シカマルは軽くため息をつく。
とりあえず家で預かったはいいものの、これからどうすればいいのだろうか。
問題は、彼女の素性、木ノ葉への侵入経路、侵入目的が全く不明であることだ。
本人は気づいたらここに辿り着いていた、まったく身に覚えがないと言っていた。
嘘をついているようにも見えなかったが、こればかりは疑惑の張本人の言い分だ、確かなこととは言えない。
また、可能性として考えられるのが、別の人間の存在だ。
もう一人(もしくは複数)の人間がマガナミを木ノ葉へ置き去り、自らは木ノ葉を離れたか、自らも木ノ葉のどこかに身を隠しているか…。
となると、マガナミとその人間の関係、その人間がマガナミを何の目的で木ノ葉に送り込んだのか、その人間の最終的な目的は何なのかが問題となる。
しかし、別の人間が存在するという可能性についても、根拠になるような形跡は何一つない。
不可解な状況に論理性を持たせるべく、シカマルが考え出した机上の空論に過ぎない。
マガナミが仲間はいないと言っていたこと、何よりシカマル自身が他の人間の気配をまったく感じなかったことからも、かなり可能性の低い話である。
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