11.マガナミ -ふるさと-
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終わりはいつも突然訪れる。
それは何の変哲もない一日。
いつもどおりの日常、いつもどおりの風景。
麗らかな日の光が優しく村に降り注ぐ。
干してある白いシーツが光を受けてキラキラと瞬き、軽やかな風に洗濯物がふわりと舞った。
通りを歩く人々の顔はわだかまりなく穏やかで、そこかしこから料理や洗い物の、生活の匂いが漂ってくる。
空を見上げた子どもが、眩しそうに目を細める。
この広い空は、どこまで繋がっているのだろう、子どもは空に向かって手を伸ばした。
人々は気づかない。
自分たちを取り巻く環境が、精巧に描かれた絵画であることに。
現実から切り取られた、生のない虚構であることに。
人々は、幸せな記憶を留めておくために、その風景を絵に描いて残す。
輝かしい、晴れやかな一幕。
井染一族は、いわば、その絵画の中に住みついていたのである。
しかし、それはどこか無機質で、二次元的で、表面的であった。
変わらない日々。
昨日もそうであったように、明日もそうであるように、毎日、毎日、同じ日常。
変革もなければ、成長もない。
しかし、約束された、ささやかな安息。
だが、繰り返し使用すれば、それはいつしか、くたびれていくものなのである。
お気に入りの洋服の網の目が、気づかないほど少しずつ、ゆっくりとほつれてゆくように。
絵に残された風景は永遠に幸福の瞬間を収めているが、現実は不規則に形を歪め、確実に変化してゆく。
時を止めた楽園で生きることは、所詮不可能なのである。
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