10.マガナミ -母-
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――私の母は、気立てのよい、繊細な娘だったという。
幼い頃に両親をなくしてからは、村人たちが親代わりとして彼女を育てたらしい――
マガナミの母、サリカは、物腰の柔らかな、よく気の利く女性だった。
少々反応が過敏な面も見受けられたが、村人は、それを感受性が豊かであるが故のことと取った。
彼女はとても理性的だったからだ。
黒目がちの小さな瞳。
通った鼻筋。
艶やかな黒髪を風になびかせながら、薄く小さな唇をおっとりとほころばせる様子は、見る者の心を安心させた。
彼女の細やかな気遣いは、人々に他人への接し方を教えた。
慎ましく、村の理想的な女性の一人として、彼女は穏やかな生活を送っていた。
一体、いつの時点から、この道を歩いていたのか。どこまで引き返せば、結果を変えることができたのか。
それは誰にも答えることのできない問いであり、問うても仕方のないことだ。
それでも問わずにはいられない。
一体どこで、この運命は決まってしまったのか、と。
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