06.サクラと少女と拙い会話
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バチバチと音を立てて、雨が地面を叩きつけている。
大きな獣が吠えてるんじゃないかってくらいの雷が鳴っている。
外はひどい天気だ。
この天気はいつもの雨と少し違う。
母ちゃんも、今日は少し不安そうな顔をしている。
「シカマル、あなたすぐに避難できる準備しておきなさい」
「はいはい」
母ちゃんの注意にのろのろと立ち上がる。
「『はい』は一回」
オレに向かって叫びながら、母ちゃんは準備を始める。
雨漏りや浸水の心配をしながら、てきぱきと荷物をまとめている。
だいたい荷物をまとめ終わった頃、飛び込むように、親父が帰ってきた。
「おい、避難だ。準備しろ」
「できてるわ」
すぐにタオルを差し出した母ちゃんに、親父はにやりと笑みを浮かべる。
「お前は出来る女だ」
頭をタオルで乱暴に掻き回した後、真顔に戻って母ちゃんを見た。
「誘導員が不足している。お前も手伝ってくれ」
「でも…」
母ちゃんがためらって後ろを振り返る。
親父がひょいと中を覗き込み、オレに声をかけた。
「シカマル、これから誘導に従って避難だ。一人で平気だな」
親父の声に、あくびをしながら返事を投げる。
「だいじょーぶだよ、ガキじゃねーし」
親父は、苦笑交じりに鼻で笑って、母ちゃんを促した。
「シカマル、母さんもみんなを手伝ってくるから。気をつけていくのよ」
玄関の外で、母ちゃんと親父と別れ、誘導の列に合流した。
つばのついたカッパを着ていても、顔や首筋から水が入り込んでくる。
一歩一歩しっかりと歩かないと飛ばされてしまいそうだ。
あの女は、大丈夫なんだろうか。
きちんと避難しているのだろうか。
――あの女って、誰だ?
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