生きている意味

01.邂逅


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――すんげー雨だな。

シカマルはあまりの豪雨に舌打ちをした。

――これじゃ傘なんか差しても意味ねーや。





梅雨から夏に移り変わる、この時期特有の集中豪雨が、木ノ葉の里を襲っていた。

視界は、まるで霧がかっているように、数メートル先さえ見通せない。

ひた降る雨の轟音が、かえって周囲の静寂を強調している。





この雨で訓練が中止になり、特にすることもなし、家に帰って将棋でも指そうと思ったものの、ここまで激しく降られては家に帰る気力も失せるというものだ。

――あーあ、めんどくせー、諦めてぬれて帰るか。

やれやれ、と気だるい思いで雨の中を歩き出した。








数歩と進まないうちに、たちまちずぶぬれになった。

眉間やこめかみから水が滴る。

しかし、一度ぬれてしまうと不思議なもので、雨があまり気にならなくなる。

むしろ、紡ぎだされる雨粒の音が耳に心地よく、里全体が見えない膜に包まれているようで安心する。

しばらく心を任せるままに泳がせ、いつもの道を慣れた足取りで歩いた。










雨の勢いはさらに増した。

これはさすがに激しすぎる。

身体に当たる雨が痛いくらいだ。

服が水を吸って重いからなのか、雨の勢いに押されてなのか、いつもより重力を強く感じる。低く耳鳴りもしているようだ。










かつてこれと同じくらいの、いや、もしかしたらこれ以上の豪雨が、里を襲ったことがあった。

あれはまだ自分がアカデミーに入ったばかりの頃のことだ。

そのときは豪雨に加え、雷鳴も活発に轟いていた。屋根をも砕くかと思われる水勢に、耳をつんざくような雷鳴。

川は氾濫し、家が浸水する箇所も続出した。

アカデミーの教師や上忍に誘導されながら、里中が避難したのを覚えている。

今日の天候は、雨量だけならそのときに負けずとも劣らない。

ずいぶんと荒れたものだ、と目頭をぬぐう。










その瞬間、背筋がぞわりとした。










――なんだ、この気配。気圧のせいか?…いや――





周囲に違和感を覚えたシカマルは、注意深く背後を振り返ろうと視線を上げた。





途端、視界がゆがんだ。





立ちくらみかと思い頭を軽く振る。

いよいよ耳鳴りが大きくなり、異様な空気があたりを満たす。





――なんだ、何が起こってやがる。





張り詰めた空気に身体を緊張させた。

場が、時間が、膨張しているような心もとない感覚を覚える。















唐突に、背後で重たい荷物が落ちたような物音がした。

同時に濃密に辺りを満たしていた重量感のある空気が束縛を解く。










飛び跳ねるように背後を振り返り、シカマルは我が目を疑った。

そこにあったのは、ぼろぼろになって使用を諦められた荷物のような










人間だった。









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