生きている意味

03.目覚める少女


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いい天気だな。





ベンチにだらりと腰かけ、空を見上げながらひとりごちる。

あらゆる雑念を飲み込む青い空に、綿のような雲が気持ちよさげに浮かぶ。

ゆっくり流れていく柔らかな動きは、海を悠々と泳ぐ大魚のようで、日常のせわしなさをひと時忘れさせてくれる。







空はいいよな。



自由で。










こうして、ただ空を見上げているだけの時間が、一番幸せだとシカマルは思う。







草木は大地に根を下ろし、虫や動物たちはそこにねぐらを作る。

花に誘われた虫が花粉を運び、その花粉が新たな地で花を芽吹かせ、虫は蜜を持ち帰る。

いきとし生けるすべてのものたちと、大元のところでは同じはずの人間なのに、どうしてこうもせわしなく生きなければならないのだろうか。

もっと穏やかに、ゆったりと生きていけたら。

上空をじゃれるように羽ばたいていった鳥たちを見ながらため息をついた。





「シカマル、何してるの」





背後から声がかかった。

振り返らなくてもわかる。

この声は、幼い頃から共に過ごしてきた親友の声だ。





「チョウジか。何もしてねー。ボーっとしてたんだ」

「シカマルらしいね」

チョウジは笑いながらシカマルの隣に腰を下ろした。

「今日は暇なの?だったらアスマ先生のところに行って、焼肉おごってもらおうよ」

人懐こい笑顔を向ける。





シカマルの知っているチョウジはいつも笑っている。

彼といると心が落ち着き、安らいだ気持ちになれる。

彼の穏やかな気性が、シカマルは好きだった。





「朝っぱらから焼肉かよ。いいぜ…って言いてートコなんだけどよ、ちと野暮用があってな」

「野暮用?そういえばこの前、綱手様に呼ばれたんだってね。任務なの?」

「任務っつーかなんつーか…。4日前、身元不明の女を拾ったんだ。そいつの処遇を任されちまってな。ったくめんどくせー」

「あの大雨の日?どんな人なの?」

「さーな。年はオレらと同年代ってとこだ。瀕死の状態で木ノ葉病院に運んだから、後のことはわかんねーよ」

「そっか、それでこれから、木ノ葉病院に行くんだね」

「まあそんなとこだ」

「よし、ぼくも一緒に行くよ」

チョウジがベンチから立ち上がる。

「構わねーけど、別に無理に付き合わなくていいんだぜ」

「ううん、シカマルが面倒見るっていう女の子に興味あるしね」

シカマルは、チョウジの言葉にだらりと眉を下げた。

「周りからのそういう視線もめんどくせぇ」

重い気分と腰を、大儀そうに持ち上げる。





ほら、行くよシカマル、と前を歩き出すチョウジの背中に、本日何度目かの大きなため息をついて、とぼとぼと歩き出した。




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